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リアルの専門家よりネット動画配信を信じる人たち みずからの健康を危険にさらしクレーマーになるケースも

知識を持つ専門家でないと怪我をする可能性のあることも「セルフ」で行うのは危険だ(イメージ)

知識を持つ専門家でないと怪我をする可能性のあることも「セルフ」で行うのは危険だ(イメージ)

近ごろ「セルフ○○」が様々な分野で広まっている。

今までプロにお願いしていたエステや脱毛、整体など動画などを参考に自分で施術するというのである。

ただ、その動画の通りに自分でやっても、動画のようにうまく出来なかったとき、自分の失敗を認めるのは難しいらしい。

ライターの宮添優氏が、動画の真似をして失敗したことを認められず、酷い場合は現実にトラブルを起こしてしまう人たちに振り回される周囲の人々の苦悩をレポートする。

 

 * * *
「真夜中に急患なんて珍しいと思っていましたが、同業者に聞いても、最近は、たまにあるというんです。患者さんに聞けば、ネットで整体師の動画を見て自分でやろうとして、おかしなことになったと仰るんですね」

 

 千葉県内の整形外科医・伊藤篤さん(仮名・50代)は、コロナ禍で皆が外出を控えていた頃から、首や腰を痛めたと言ってやってくる患者が増えたことに違和感を持った。

ストレスが多くなっているだろうから、不調を訴える患者が増えたことは珍しくないと受け止めていたが、彼ら、彼女らが問診時に、なぜ痛みが出るに至ったかをハッキリ言わないことが不可思議だった。

 

「普通はあるじゃないですか、スポーツやっていたらとか寝違えたとか思い当たるフシが。

さらにみなさん、日常生活をしていたらここは痛めない、というような箇所の痛みを訴えられる。

それでもっと詳しく聞くと、実は……という感じでお話になる。

患者さんなりに、やはり後ろめたいのでしょうね」(伊藤さん)

目の前の医師よりネット動画を信じる患者

 

伊藤さんが違和感を抱いていた患者のほとんどが、問い詰めると「ネット上で見た整体の真似をした」結果、体の一部を痛めていたのだ。夜などにひとりきりで、部屋で動画を見ながら”セルフ整体”をしていたところ、強い痛みに襲われ、どうしようもなくなって夜間に伊藤さんの病院に駆け込んだ、という例もあるという。

 

「どんな動画を見ているんですか、と見せてもらい、驚きました。整体師を名乗る日本人や外国人の動画がたくさんあって、いろんな動画を参考にして、自分で整体をしていると言っていました。

もちろん、自分ひとりで気軽にできるストレッチなどもあるにはありますが、そこで紹介されていたのは首や腰を強く捻ったりするなど、医師や専門家がいない中でひとりで行うには危険な行為も紹介されていました」(伊藤さん)

 

コロナ禍で急拡大したオンラインヨガの一コマ。初心者がいきなり一人きりで挑戦するには危険なこともあるので要注意(イメージ、EPA=時事)

コロナ禍で急拡大したオンラインヨガの一コマ。初心者がいきなり一人きりで挑戦するには危険なこともあるので要注意(イメージ、EPA=時事)

 医師である伊藤さんからすれば、医学的に問題がある行為を薦めている動画だと思っているが、こういう場合に「見るな」とは言わない。

なぜかというと、患者が医師を不審がったり、場合によっては逆上することもあるからだ。

 

「そんな動画を信じてはいけないと言うと、患者さんは自分が間違っていたのか、騙されていたのかと落ち込まれたり、逆に私の言うことなんか信じられないと、怒って帰られる人もいる。

 

今、医師の私と面と向かってお話ししているのに、なぜネットのほうを信じようとしたがるのか。まして私のところに来ているのに、さっぱりわかりません」(伊藤さん)

 

 かつてネット発の情報は、とりあえず疑ってかかれ、ソース(情報源)を確認するのが当然と言われており、実際に確かめてから受け止める人が多かった。

 

ネット情報は”玉石混交”ともいわれ、多くの偽情報の中から、正しい情報を見つけ出す能力こそが「ネットに強い」ともされたと筆者は記憶している。

 

 ところがSNS、とくに動画共有の仕組みが発達してからは、急速にその習慣が廃れ、新聞やテレビ、雑誌といったいわゆる「オールドメディア」より信頼できる存在として受け入れられつつある。当然その背景にはマスメディアへの不信感もあろう。人間は「信じたいものしか信じない」と、よく言われるが、SNSの台頭で、その傾向に拍車がかかっているのかもしれない。

 

 ネットで見たものをすべて信じるな、と言うつもりはない。信じることで生きやすくなることもあるだろう。しかし、気をつけたいのは、信じた情報が真正であればよいが、それが間違っていた場合、指摘してくれる人は誰もいないという事実についてだ。

 

間違った情報をあえて拡散する人たちも存在し、そう言った人々に感化されながら間違った道を邁進せざるを得ない状況に追い込まれるわけだが、当人はそれに気が付かず、その間に病状を悪化させるなどしてしまう。

 

「セルフ整体で体を痛めても、しっかり正しい施術をすれば回復はします。でも、そういう患者さんは回復前に来なくなったり、別の動画を見て、新たなセルフ整体にチャレンジしてまた来院される。

情報が多いのはいいことですが、間違った情報が氾濫している現状は、医師としても頭が痛いです」(伊藤さん)

100円ショップDIY動画の罠

 SNSや動画サイトの台頭が、市民間の情報伝達に寄与していることは事実だが、前出の整形外科医・伊藤さんが言うようにさまざまな弊害も孕む。大分県在住の農業・仲野亮さん(仮名・30代)は、同居の母が自宅内のあらゆる場所を「改造」し始め、さらに百円ショップに足繁く通うようになり不思議に思ったという。原因は、最近母が見始めたという動画サイトだ。