夏祭り、楽しみのひとつは露店めぐり(イメージ、時事通信フォト)
警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。
今回は、暴力団幹部が案内する最近の露店事情について。
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夏祭りの季節がやってきた。東京都内の各地では週末ごとに威勢のいい掛け声とともに神輿を担ぐ姿がみられるようになった。
祭りといえば屋台や露店。
露店といえばテキヤ。テキヤとヤクザは別物だが、テキヤ系暴力団なるものも存在する。
そのテキヤ系暴力団を出身母体にもつ現役の暴力団幹部とともに祭りを歩くとどうなるのか、著者の体験談を報告しよう。
その日東京は真夏日になったため、待ち合わせは夕方から。
祭りの行われている神社の前に到着し、幹部に電話すると「そこで待ってて。俺がそこに行く」と電話が切れた。
「今日は暑いっすね」、しばらく待つと幹部が手を上げながら現れた。明るい色のTシャツに薄い色のコットンパンツ、サンダルにブランド物の小さなトートバッグ。
「半纏を着てきてもよかったんだけど、神輿を担がないのに着ていたら、偽半纏だよな」と笑う。
どこにでもいるイケオジといった風貌だが、目つきは鋭く、雰囲気はカタギの一般人とは違う。「こっちに知り合いが1本出しているから」というので、彼の後についていく。
露店は1本、2本と数えるという。
焼きそばやリンゴ飴など露店が軒を並べる間を大勢の人が行き交い、思うように身動きが取れない。
祭りが行われている神社は幹部の地元でもシマでもないが、長年テキヤとは関わりがあった幹部だけに、いくつかの露店には顔見知りもいるはずだ。
まだキャッチがどこの繁華街でも横行していた頃、幹部にシマ内の飲み屋街を案内してもらったことを思い出す。
店の前に立つ黒服やキャッチが次々と挨拶していく光景はVシネの映画のようだった。あれから時が経ち、世間の目はヤクザには厳しくなった。
挨拶する者や声をかけてくるような同業者はいるのだろうか。
「現役の組員が店に立つことはあるのか」と尋ねると、「今は厳しくなったから現役はいないだろう。組を辞めたヤツ、辞めさせられたようなヤツはいる。
それより組員の奥さんや娘、息子がやっている方が多いかもな」という。
現役の組員に露店は出せないが、家族であれば露天商は営めるからだ。
人波にもまれながら、知り合いの露店を探し、周りを見回しながら歩く幹部を見つけ、焼きそばを焼いていた男がすっと顔を伏せた。
「○○を辞めたヤツだ」と幹部は前を向いたまま言う。
少し進んだ金魚すくいの店の前では、客を呼び込んでいた男が幹部に気が付き、ハッとした顔で目を見開いて立ちすくんだ。
だがどちらの男も声はかけてこなかった。幹部が声をかけることもない。
綿あめやお面はもう売れない
ケバブ屋のそばで空の台車を押していた男性が幹部に気が付き、台車を自分の方に引いた。時々、幹部の顔を見ておっという表情をする男たちがいる一方、一般人は祭りや露店に夢中だ。
身体が触れあうほどの近さですれ違っても、その人物を気にかける者はいない。
無理やりベビーカーごと幹部の前に割り込むように入ってきた若い夫婦に「すみません」と幹部が謝り、路地の角で道をふさぐように立つ若いカップルの脇を「ごめんね~」と言いながら通っていく。
その度に幹部は背中を丸めて頭を軽く下げるが、一般人は彼のことを気にする様子もなくスルー。
その後ろでは先ほどの台車の男が、幹部の足に台車をぶつけないよう数センチという微妙な距離を取りながら、ゆっくりと台車を押していた。
「古きよき祭りの文化みたいな店は少なくなった。
綿あめやお面はもう売れない。露店も流行に左右される。コロナ前はあんなに多かったトッポギやチーズホットクは見かけなくなった。
今年は何が流行るだろう」(幹部)。
外国人観光客目当てか和牛の串焼きの露店が多く出ているが働いているのは外国人。隣でベビーカステラを焼いていたのも外国人。
だが店の前に客はいない。
「テキヤも人出不足でね。どこも手っ取り早く外国人を雇っているが、昔からあるベビーカステラやたこ焼きを外国人が焼いていてもピンとこない。
人がいればそれで済むと思うのは間違いだ。だからベビーカステラや綿あめなど技術が必要な店に、人を出してくれないかと頼まれることもある」と話すが、出せるのは経験のある元組員にだという。
目的の店にたどりつくと「こんちは~。どう?」と手を動かしていた若者に声をかけ、冷たいドリンクを差し入れた。「うちの若いの」と幹部はいうが、現役ではないらしい。
ベビーカステラを焼く甘い匂いがふんわりと漂う店の前には長蛇の列。
若者は小さな紙袋にカステラを詰めると、「これ」といって幹部に手渡した。
「俺食べないよ」といいつつ受け取った幹部は、「向こうに挨拶してくる」と店を離れた。
回転盤の前に戻った若者の手際はリズミカルだ。
「あの1樽で20万円になる。売れる時は丸一日で4樽は出る。
腕が痛くなるがね」という。
暖かいベビーカステラを口に放り込みながら幹部が歩き出す。
冷やしキュウリの店の前で輩のグループが立ち止まっていた。
後ろから押された幹部がそのうちの1人にぶつかりそうになると、男は振り向きざまに「なんだぁ」とばかりに睨みを利かせたが、幹部の顔を見るなり虚勢を崩し頭を軽く下げた。
知り合いではないようだが、似た者同士の匂いがするのだろう。
男が身体をずらして道を譲るが、そこに外国人観光客が入り込んでくる。
別の店にも顔を出すが、こちらは閑古鳥が鳴いていた。
店先にいたシニア男性は元組員、やる気がないのか椅子に座ってボケっとしていた。
幹部が声をかけるまで気が付かず、慌てて立ち上がり頭を下げた。
ぬいぐるみを売る店の前にくると幹部は「姐さん、こんにちは」と、中を覗き座っていた女性に声をかける。
姐さんと呼ばれた女性が「あら~久しぶり、元気だった」と奥から顔を出して立ち上がった。
威勢のいい姐さんは、何本もの露店を仕切っているテキヤの親分の妻だという。
「昔は俺たちも一緒に神輿を担げたらから知り合いも多かったが、今はね」という幹部に、通りで挨拶する者も声をかけてくる者もいないが、その筋の者は暗黙のうちに互いをチェックしていたようだ。
声を出さなければ周囲にいる人たちは誰も気が付かない。
自分の隣を現役幹部が歩いていたなど、一般人も観光客も知る由もなかった。