昼夜を問わず病気やけがを治してくれる医師たちは、時に“神様”にすらなぞらえられる。
しかし彼らも人間。
目の前の患者の振る舞いや言動によって治療に対して全力にも、手抜きにもなる。
医師はどんな患者こそ“全力で助けたい”と思うのか?
4人の現役医師が忌憚なく語る。
【座談会参加者】
A男さん(43才)/内科医。総合病院で高血圧をはじめとした生活習慣病の治療に従事。
B子さん(47才)/皮膚科医。大学病院での勤務を経て父の跡を継ぐ形で個人クリニック院長に。
C夫さん(51才)/外科医。大学病院でがん手術にあたる。
D美さん(31才)/産婦人科医。総合病院で妊娠・出産や、婦人科系疾患に携わる。
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A男:じっくり向き合うことが苦痛になる患者がいることも確かですが、反対に自分の病気と真摯に向き合おうとする「全力で治したい患者」もいますよね? ぼくの場合、食生活の改善や運動に積極的に取り組み、努力している生活習慣病患者には、こちらも丁寧に時間をかけて接したくなります。
B子:病気ときちんと向き合って、私たち医師の声をしっかり受け止めようとしてくれる人には、どうしても気持ちが入りますね。
うちはホームページで「巻き爪のセルフケア」などちょっとした情報を発信しているのですが、それを見て「実際に試してみたんです」と言ってくれた患者さんがいたときは、うれしかったです。
仕事が忙しい患者さんだったので、何度か特別に診療時間外に対応したことがあります。
C夫:主体的な患者さんの振る舞いにこちらも襟を正されたことは多々あります。
ぼくの印象に残っているのは、まだ若手だった頃セカンドオピニオンを経て、また戻って来てくれた胃がん患者の男性です。
あまり口数の多くないかただったんですが、手術を終えて、いよいよ退院日が決まったことをお伝えしに病室に行くと、「ありがとうございました。ぼくの目に狂いはなかった」と言われて。
D美:それはうれしいですね。
「セカンドオピニオンを取りたい」と言われて、快く送り出せるかどうかも医師のスキルの1つですからね。
C夫:確かに。自分を否定されたようでついムっとしてしまうという気持ちも非常にわかる(苦笑)。
彼はセカンドオピニオンでテレビに出ているようないわゆる“名医”のもとに行ったものの「どうしても信頼関係を築くことができなかった」と言うんです。
「あなたは、ぼくが理解できるまで何度もイラストを描いたり身振り手振りを交えたりして、辛抱強く説明してくれた。それがうれしかった」と話してくれて。
二人三脚で病気に立ち向かえた経験をさせてもらえたのは、医師としてありがたかったです。
“働き方改革”で手抜きが増える
〈4人の本音から浮かび上がったのは、医師たちに全力を尽くしてもらえるかどうかは“患者にかかっている”ということ。いまですら、片手間になってしまう患者がいるなか、2024年4月から導入される「医師の働き方改革」により、さらに“手抜き”せざるを得ない状況が発生するかもしれない。
同制度は医師の長時間労働を問題として、時間外・休日労働は原則、大学病院などの勤務医が年960時間、地域医療の確保や医師のスキル向上に必要な医療機関で働く医師は年1860時間を上限とするものだ〉
B子:うちは個人のクリニックだから、働き方改革はあまり関係ないですが、みなさんはどうですか?
C夫:確かに医師の職場は限りなくブラック。2022年5月にも神戸の病院に勤務する若い医師が過労で自殺する事件もありましたし、制度によって縛りができることは賛成です。
A男:ただ、医師が不足している地域では、診療時間を減らしたり救急外来をなくしたりせざるを得ず、「手抜き」しなければ回らないような状況が発生するかもしれない。
D美:働き方改革が行われても医師不足が解消されるわけじゃないですし、患者さんと向き合う時間はますます減ると思います。特に意思疎通がうまくできない患者さんは今後さらに厳しいでしょうね。
A男:確かに、コミュニケーションがしっかり取れる患者さんは本当にありがたい。
だけど単におしゃべりすれば医師と仲よくなれると思って、井戸端会議的な話ばかりされると困ってしまう。もちろん、不安や疑問点があれば質問することは大事です。
D美:その通り。加えて私は母子手帳にカバーをつけて、丁寧にメモをとっているような人には好感が持てます。B子:症状の発症や経過を時系列でメモしてくる患者さんや、診療時に必要なことをノートに書き込んでおいてくれる患者さんはその後のやりとりもスムーズで、本当に助かります。
C夫:確かにメモをとるのはいいと思う。ただし、うちの病院では録音や動画撮影は禁止ですし、たとえ許可されていたとしても、そこまでされるとなんだか信用されていない気がします。
A男:ぼくは録音はそれほど気にしないけれど、動画撮影はやりすぎだと感じます。
病院によってルールも異なるので、確認してみるのがいいですね。
結局、大事なのは挨拶をきちんとして、最低限の言葉遣いで、予約の時間を守るとか、診察しやすい服装で、処方された薬はしっかりのんで、医師や看護師からの質問にはきちんと答えるといった基本的なこと。
マナーがきちんとしている人はみなさんいい患者です。
D美:そうですね。病院という場所をわきまえて、節度を持ってくれるだけでもずいぶん向き合い方が変わります。産婦人科という性質上、必ずしも体調が悪い人ばかりが来院するわけではないのですが、院内には具合の悪い人や抗がん剤治療中でにおいに敏感な人もいますから、過度な香水はつけずに、化粧は薄め。
あとは清潔感もポイントかな。症状が重くなければ、シャワーを浴びてきてくれればなおいいです。
C夫:そもそも医師だって、決して完璧ではないですからね。どんなに“いい患者”でも、“外れ医師”に当たることはある。自分は偉いと思っている横柄な医師もいるので、そんな人と信頼関係を築くのはなかなか難しい。
D美:例えば患者の目を見ない医師や、初診時に10分以上時間をかけないような医師、経歴があまりにも短かったり勤務した場所が少ない医師は避けるべきだと思います。
B子:それは私が患者でも遠慮したい(苦笑)。あとは個人経営のクリニックなのに、内科に加えて皮膚科や泌尿器科など、多くの科を標榜しているところも要注意。自分で開業していて痛感するのですが、ひとりで幅広い分野の診察ができるはずはありません。
A男:スタッフ間のやりとりが活発であるか、衛生意識がしっかりしているかなど、病院の様子もよく観察してほしいです。
(了)
※女性セブン2024年1月1日号