食品や日用品、医薬品などが四六時中買え、住民票やチケットも入手できるコンビニエンスストア(以下、コンビニ)が日本に登場してから、半世紀が経過した。その歴史を振り返る。
「1970年代の高度経済成長期、アメリカで見たコンビニに商機を感じ、日本に導入したのが、セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文さんでした。当時は大型スーパーが台頭していた時代。小さな個人商店がコンビニになれば、大型店と共存共栄ができると考え、日本独自のビジネスモデルを築き上げていったのです」
そう語るのは、コンビニジャーナリストの吉岡秀子さんだ。コンビニ大手3社(セブン-イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマート)とデイリーヤマザキのオープンはほぼ同時期だが、1975年、セブン-イレブンが24時間営業になったのは画期的だった。
折しも、《24時間戦えますか》のキャッチコピーに象徴される1980年代バブル期へと時代が移り、深夜~早朝も利用できて便利と、若年層を中心に求められたのだ。
各社もこれに追従し、コンビニ業界は急激に成長。店舗数は5万5657店にまで増えた(2024年1月時点、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会調べ)。
「24時間営業をはじめ、手軽に食べられるおにぎりやおでんなどを販売して中食を定着させるなど、各時代の便利に対応し続けたコンビニは“変化対応業”といえます」(吉岡さん・以下同)
その後も“便利”を追求し、宅配便や収納代行の取り扱い、24時間現金を引き出せるATMの導入など、“社会のインフラ”として欠かせない存在となっていった。
その後も変化を続けている。
「健康やSDGsに配慮する傾向が強くなっています。食品も味はもちろん、栄養成分まで考えられるように。食品ロスへの取り組みも当たり前になりました」
買いたくなる店内レイアウト進化史
店内レイアウトも時代に合わせて進化している。コンビニ研究家・田矢信二さんが解説する。
「コンビニが開業した当初は、アメリカのコンビニを模していたため、店内レイアウトが日本人の買い物スタイルに合っていませんでした。
そこでセブン-イレブン・ジャパンが試行錯誤し、2000年前後にいまのレイアウトにたどり着きました」(田矢さん・以下同)
別掲図を見てほしい。現在の店内レイアウトの一例だ。
「立地条件などによって異なりますが、一般的には、冷凍食品やチルド商品などの主力商品が店内奥、あるいは壁際に陳列されています。
主力商品の棚にたどり着くまでに、雑誌や日用品などが並ぶ棚の前を通らないとなりません。
その先には、ドリンクの棚もあり、店内をぐるぐると巡りながら目的である主力商品の棚にたどり着く仕掛けになっているのです。
その間、目についた人気商品や新商品などを“ついで買い”してしまうわけです」
コンビニに行ったら、商品陳列も意識してほしい。無意識のうちに店内を一周していることに気がつくはずだ。
コンビニ50年の軌跡
日本でコンビニが登場してから今年で50年。セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート、デイリーヤマザキのコンビニ4社のヒット商品&サービスを年表にしてまとめた。
【20世紀】
1973年9月:ファミリーマートが埼玉県狭山市に1号店「狭山店」(現・入曽店)オープン
1974年5月:セブン-イレブンが東京都江東区に1号店「豊洲店」オープン
1975年6月:ローソンが大阪府豊中市に1号店「桜塚店」オープン。同月、セブン-イレブンが福島県郡山市「虎丸店」で24時間営業を開始
1977年5月:現・デイリーヤマザキが東京都豊島区に「サンエブリー雑司ヶ谷店」オープン
1978年:ファミリーマートが千葉県船橋市にフランチャイズ1号店「大閣三山店」オープン
1978年:セブン-イレブンで「手巻おにぎり」を販売開始
1979年3月:ローソンが初めてコンビニにフライヤーを導入し、店内で調理したフライドフーズの販売を開始
1979年:セブン-イレブン・ジャパンが「おでんウォーマー」を開発し、おでんの販売を開始
1982年3月:ローソンが宅配便の取り扱いを開始
1987年10月:セブン-イレブンが24時間公共料金を支払える「収納代行サービス」(東京電力料金)を開始
1996年3月:ローソンが切手・はがき・収入印紙の販売開始。7月、日系コンビニ初の中国出店も果たす
1997年:ローソンがトイレを開放。9月、マルチメディアステーション「Loppi」誕生。チケットの予約や購入などができるように
1999年3月:さくら銀行(現・三井住友銀行)がam/pm(2010年3月、ファミリーマートに吸収合併)に初めてATMを設置。10月、ファミリーマートで、ATM(現金自動預金払出機)サービス開始
2000年:セブン-イレブンで「ミルクたっぷりとろりんシュー」(現「とろ生カスタードの窯焼きシュー」)を販売開始
2000年12月:デイリーヤマザキが店内でパンや弁当などを製造する「デイリーホット」機能を導入
【21世紀】
2001年5月:セブン-イレブン・ジャパンが新銀行「アイワイバンク銀行」(現「セブン銀行」)を設立。ATMが店内に設置される
2001年7月:ローソンが東京都目黒区自由が丘に「ナチュラルローソン」1号店オープン
2003年1月:ローソンが全国の店舗内に郵便ポストを設置
2005年5月:ローソンが東京都練馬区貫井に「ローソンストア100」1号店オープン
2006年10月:ファミリーマートが「ファミチキ」販売開始
2007年4月:セブン-イレブンで電子マネー「nanaco」を導入
2007年5月:セブン-イレブンでPBブランド「セブンプレミアム」を販売開始
2007年11月:ファミリーマートが「Tポイントサービス」を始め、「ファミマTカード」を発行
2009年9月:ローソンが大ヒットスイーツ「プレミアムロールケーキ」販売開始
2010年9月:セブン-イレブンで「プレミアム」シリーズの最上級ブランド「セブンプレミアムゴールド」を販売開始
2011年1月:ローソンが店内でいれたてのコーヒーを提供する「マチカフェ」をスタート
2013年1月:セブン-イレブンで「セブンカフェ」がスタート
2013年4月:ファミリーマートが「ファミマこども食堂」開始
2019年7月:ファミリーマートが決済機能付きアプリ「ファミペイ」を開始
2019年8月:コロナ禍によるデリバリーニーズの高まりを受け、ローソンが「Uber Eats」を導入
2022年11月:ローソンが東京都豊島区北大塚の「グリーンローソン」に「アバター店員」導入
2024年2月:セブン-イレブン・ジャパンが千葉県松戸市に、コンビニとスーパーなどを組み合わせた「SIPストア」の実験1号店「松戸常盤平駅前店」オープン。
さまざまな商品やサービスを提供するコンビニエンスストアが日本に登場して、今年で50年となる。その歴史を振り返った第1回につづき、第2回からはセブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート、デイリーヤマザキのコンビニ4社の特徴を紹介。今回は、国内の店舗数2万1535店(2024年2月末現在)と、コンビニ業界では最大規模を誇るセブン-イレブンについてお届けする。
目次
新しい日本の食文化を作った
セブン-イレブンの食へのこだわり
“ツナマヨ”がおにぎり文化を変えた
缶切り不要のプルトップ缶を開発
コンビニ業界初の大型アイスケースが登場
「コンビニコーヒー」という新ジャンルを築く
コンビニ業界激震!「セブンプレミアム」の登場
最短20分で配達するスマホアプリ「7NOW」
新しい日本の食文化を作った
「セブン-イレブン・ジャパンの強みは多々ありますが、特筆すべきは“食”へのこだわりです」
とは、コンビニジャーナリスト・吉岡秀子さん(「」内、以下同)。その姿勢は創業初期の1978年、コンビニ業界初の手巻おにぎりを販売し始めたときから変わらないという。
「パリパリののりをご飯と別のフィルムに包み、食べる前に巻くという画期的な包装と手頃な価格、そしてもちろん味のよさから、不動の売れ筋商品となったのが“おにぎり”です。ツナマヨネーズをはじめとしたアイディア具材やイクラなどの高級具材、もち麦入りや産地にこだわった米など、家庭では作り出せないおにぎりを、時代のニーズに合わせて開発。
それまでは家で作るものだったおにぎりを、コンビニで“わざわざ”買うものにまで進化させたのです」
そんなセブン-イレブンの真骨頂が、2010年に登場したプライベートブランド「セブンプレミアム」の最上級シリーズ「セブンプレミアムゴールド」だ。
「特にこのシリーズの総菜は、専門店レベルの味と品質にこだわっており、それが、基本的に電子レンジで温めるだけで食卓に出せます。そのため調理が時短できるのに食事に対する手抜き感がないと、多忙な働く女性を中心に爆発的にヒットしました」
セブン-イレブン・ジャパンのこだわりが、“コンビニ食=おいしくて時短にもなる”という認識に変えたといっても過言ではない。
“ツナマヨ”がおにぎり文化を変えた
“おにぎり”の具材は発売当初、昆布、鮭、梅が定番だったが、1983年に転機を迎える。
「取引先のお子さん(当時小学生)が、ご飯にマヨネーズをかけて食べると聞いて開発されたのが『シーチキンマヨネーズ』(現・ツナマヨネーズ)です」(コンビニ研究家・田矢信二さん)
具材としての珍しさとおいしさから大ヒットし、“ツナマヨ”がおにぎりの定番具材になるほど食文化を変えた。
缶切り不要のプルトップ缶を開発
「片手で手軽に食べられるホットスナックなど、便利な商品が次々と出ていた1980年代。缶切りがないと開けられないため敬遠されがちだった缶詰を、もっと手軽に買ってもらおうと、セブン-イレブン・ジャパンが缶切り不要のプルトップ缶を開発。1981年に発売すると、話題になりました」(吉岡さん)
いまの缶詰はこのプルトップ缶が当たり前になった。
コンビニ業界初の大型アイスケースが登場
アイスキャンディーが主流だった氷菓だが、1990年代、高級アイスクリームがデザートとして認知されるようになった。同時に、利便性から冷凍食品への需要も高まり、1994年に大型アイスケースをセブン-イレブンに導入。店内の中央に置かれるように。さらに2004年、ケースのガラス扉を外し、商品を取りやすくした。業界では初めての試みだったという。
2013年に全国発売になった本格的ドリップコーヒー「セブンカフェ」。店内のコーヒーマシンで、挽きたてのドリップコーヒーが楽しめるのだが、その価格がなんと1杯100円(現在は120円)。高品質低価格で話題に。
「コンビニはスーパーに比べて生活必需品の品揃えが悪いと考えられてきましたが、2007年に『セブンプレミアム』が登場すると、総菜や日用雑貨など3500アイテム以上のPBを展開。スーパーに行かなくてもコンビニで手軽に買い物ができるスタイルを新たに作り、コンビニ業界に激震をもたらしました」(吉岡さん)
最短20分で配達するスマホアプリ「7NOW」
セブン-イレブンの商品をスマホアプリ「7NOW」から注文すれば、最短20分で配達してくれるサービスがコロナ禍に登場。ネットスーパーのように使え、外出できない、忙しくて食事の準備ができないときに便利。「まだ地域や店舗限定ですが、今後はエリア拡大を予定しています」(広報担当者)。
※商品価格は、各コンビニの標準販売価格(税込)。地域により商品の規格や価格が異なる場合も。また、情報はすべて3月7日時点のもので、商品によっては販売終了や価格が変更になる場合があります。
生活に欠かせない存在であるコンビニエンスストアが、日本に登場してから今年で50年となる。その歴史を振り返るとともに、セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート、デイリーヤマザキのコンビニ4社の特徴を紹介。今回は、「ナチュラルローソン」「ローソンストア100」を含めて、国内1万4650店(2024年1月末現在)を構えるローソンについてお届けする。
目次
時代の一歩先行く挑戦を続ける
ローソンのロングセラー商品と画期的なサービス
シリーズ累計42億食の看板商品「からあげクン」
“コンビニスイーツ”流行の立役者
低糖質ブームの先駆けになった「ブランパン」
自宅にいながら接客できる新しい働き方
時代の一歩先行く挑戦を続ける
コンビニジャーナリストの吉岡秀子さんが解説する。
「ローソンといえば、コンビニ店舗内に初めて揚げ物を調理するためのフライヤーを導入し、店内で揚げたての温かい『からあげクン』(1986年~)を提供して大ヒットさせたり、『プレミアムロールケーキ』(2009年~)に代表される、お手頃価格で高品質のスイーツを売り出し、“コンビニスイーツ”の流行を定着させてきました。
それだけではなく、他社に先駆け、健康色を強く打ち出した商品戦略で時代を先取りしてきたのが、大きな功績だと思います」(吉岡さん・以下同)
その戦略を体現したのが、美と健康を考えたライフスタイルをサポートする新しいコンビニとして2001年にオープンした「ナチュラルローソン」だ。
「美と健康にいい商品を取り揃えてはいるけれど、高価格帯の商品が多い印象があり、当初は浸透しませんでした。それがこの20年で時代がローソンの“最先端のチャレンジ”に追い付き、いまでは人気店に。都市部にしかないので、探してでも買いに行きたいという客が若者や働く女性を中心に増えています」
ナチュラルローソンでヒットした商品が、全国のローソンで発売されることもあるという。
一方、ナチュラルローソンの対極として、「100円おせち」など、リーズナブルな商品を揃えたのが「ローソンストア100」。コンセプトに合わせてさまざまな形態のコンビニを展開しているのもローソンの特徴といえる。
ローソンロングセラー商品と画期的なサービス
シリーズ累計42億食の看板商品「からあげクン」
指でつまんで歩きながら食べられるようにと開発された一口サイズのからあげ「からあげクン」は、1986年の発売以降、ローソンの看板商品に。
「お客さまに飽きられないように、鶏肉や小麦粉を100%国産にしたり、肉の中にチーズソースを入れるなどして、少しずつ改良を重ねています」(ローソン商品本部長補佐・梅田貴之さん・以下同)。
たゆまぬ努力がロングセラーのゆえんなのだ。
“コンビニスイーツ”流行の立役者
「ロールケーキを横に寝かせてスプーンで食べる」という斬新な発想と、専門店にも負けない高品質な生クリームのおいしさで“コンビニスイーツ”というジャンルを築いた画期的商品が「プレミアムロールケーキ」だ。発売から5日で100万個以上を売り、2009年の発売以来、170種類、累計4億8000万個を販売した。
「当時コンビニで売られているプリンやシュークリームは“デザート”と呼ばれていましたが、本格的なスイーツを売り出すことに。その際、鍵になるのが生クリームだと考え、200回ほど試作を重ねて開発しました」
やわらかい生クリームが主役なので、スプーンですくって味わってほしい。
低糖質ブームの先駆けになった「ブランパン」
穀物の外皮を使用することで、糖質とカロリーを抑えたブランパン。2012年に発売した頃は「糖質制限」という考え方が世間に浸透しておらず、カロリーや糖質を制限する一部の人にしか需要がなく、店頭の品数が少なくなっていった。
「ローソンでしか買えないので絶対になくさないでほしいと望む声が多く、販売し続けようと決意。以後12回の改良を重ね、しっとりやわらかく食べやすい味わいに。累計約4億個売れる商品になりました」。
自宅にいながら接客できる新しい働き方
時代の先取りが得意なローソンは、SDGsにも早くから取り組んできた。たとえば2022年11月、東京都豊島区に近未来型店舗「グリーンローソン」をオープン。この店舗では、食品ロスやプラスチックゴミの削減、働き方の多様化など、サステナブル(持続可能)な店舗運営を見据えている。
注目すべきは、省人化のために導入された「アバター店員」。レジはセルフだが、わからないことはアバター店員に聞くと対応してくれる。アバター店員は、スタッフが遠隔操作しており、自宅にいながら接客できるのだそう。
※商品価格は、各コンビニの標準販売価格(税込)。地域により商品の規格や価格が異なる場合も。また、情報はすべて3月7日時点のもので、商品によっては販売終了や価格が変更になる場合があります。
次回に続く・・
※第4回は3月20日に公開予定です。
【プロフィール】
コンビニジャーナリスト・吉岡秀子さん/千葉明徳短期大学非常勤講師。コンビニの商品開発などについて消費者目線で取材し、情報を発信。主な著書に『セブン-イレブン 金の法則 ヒット商品は「ど真ん中」をねらえ』(朝日新書)など。
取材・文/桜田容子
※女性セブン2024年3月28日号