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【人口減少社会】2040年の日本の就業者数は956万人減の衝撃試算 女性や高齢者の就労を促進しても人手不足は解消されない

今後ますます人手不足が深刻化するのは確実視されている(写真:イメージマート)

今後ますます人手不足が深刻化するのは確実視されている(写真:イメージマート)

 

ふだん暮らしている中でも、人手不足を感じる機会が増えている。

仕事の量に対して人手が追いついていない職場も少なくない。それを示す統計も衝撃的だ。

 

最新の推計によれば、「今後20年以内に日本で1000万人近い労働者が不足する」という見通しもあるが、それすらもまだ甘い見通しだという。人口減少時代の社会経済問題に詳しい作家・ジャーナリストの河合雅司氏による最新レポート。【前後編の前編】

 

 * * *
 人口減少によって就業者数はどれぐらい減るのだろうか。独立行政法人労働政策研究・研修機構」(JILPT)が2040年までを見通した「労働力需給の推計」(2023年度版)を公表した。

 

 経済がゼロ成長で推移し、女性などの労働参加が現状から進まなかった「ゼロ成長・労働参加現状シナリオ」の場合、2040年には2022年(6724万人)より956万人少ない5768万人になるという。

 

 年齢別では、若い人ほど減少スピードが速いため15~29歳は193万人減る。30~59歳は847万人減だ。反対に、60歳以上は84万人増えるとしている。

 

 産業別で2022年と2040年を比較すると、医療・福祉は88万人増えて985万人、情報通信業は33万人増の296万人となる。社会的ニーズが高まりそうな分野では伸びるということだ。

 

 これに対し、製造業は205万人減の791万人、鉱業・建設業は121万人減の356万人、卸売・小売業は92万人減の938万人、飲食店・宿泊業も82万人減って297万人になると予想している。

 

 一方、推計は経済成長率が1%台後半で推移し、女性や高齢者の労働参加が大きく進んだ「成長実現・労働参加進展シナリオ」についても試算している。

このシナリオでは、2030年に6858万人まで増加する。

2040年には6734万人まで減るが、それでも2022年を10万人上回る。

 これならば希望が持てるが、人口が激減していく中で本当に就業者数を増やすことなど可能なのだろうか。

 

 

2022年の就業率改善が根拠というが…

【グラフ】就業者数の見通し

【グラフ】就業者数の見通し

 

 JILPTは2018年度の前回推計においては、「ゼロ成長・労働参加現状シナリオ」の2040年の就業者数を5245万人、「成長実現・労働参加進展シナリオ」は6024万人としていたので、今回はどちらも上方修正した。

 

しかも今後の就業者数は減り続けると結論づけていたが、それを一転させ、就業者数が増え得るという見通しに改めたのは、就業率が高めに推移するという前提に置き換えたからだ。

 

「成長実現・労働参加進展シナリオ」の場合、前回推計は2040年の就業率を60.9%としたが、今回の推計では66.4%だ。

 

 その根拠は、足元の2022年の就業率が改善したことである。だが、これをもって今後の就業率も高めに推移すると判断することには疑問が残る。今回の推計については、専門家から「年金財政検証などに使用されることから、楽観的な見通しを示す必要もあったのでは」との声が出ている。結論ありきではないのか。

 

「ゼロ成長・労働参加現状シナリオ」についても就業率を前回より高めに置いているので、「956万人減」という数字も甘い見立てとなっている可能性がある。

 

 現実問題として、今後の就業者数を増加させることは難しい。維持することさえ容易ではない。人口減少社会においては、性別や年齢を問わずすべてが減っていくことになるからだ。

女性と高齢者の就業はすでにかなり進んでいる

 日本の生産年齢人口(15~64歳)がピークを迎えたのは1995年の8716万人だ。これに対し、多くの企業は男性の働き手の目減り分を女性と高齢者の就労促進によって補ってきた。当時、女性の労働参加は遅れており、高齢者人口は増え続けていたからだ。

 

 政府も政策で後押しをした。いまだ十分とは言えないが仕事と家事・育児の両立支援が拡充され、結婚や出産・育児を機に仕事を離れる女性は少なくなった。

 

定年年齢の引き上げや再雇用制度の整備によって60代以降も働き続ける人は珍しくなくなった。

 この結果、1995年と2023年を比較すると生産年齢人口は1321万人減ったにもかかわらず、就業者数は6457万人から6747万人へと290万人増加する逆転現象が起きたのである。

 

だが、こうした対策はいつまでも続かない。

すでに女性や高齢者の就業はかなり進んだ。2023年の15~64歳の女性就業者数を2013年と比較すると212万人増だ。

同期間の同じ年代の男性は69万人減っている。

高齢者も637万人から914万人へ1.43倍増となった。

 

 女性の場合、結婚や子育てで仕事を離れることで30代の就業率が大きく落ち込む「M字カーブ」が長年の課題であったが、内閣府によれば2022年の女性の就業率は25~29歳の84.8%に対して、30~34歳が78.4%、35~39歳は77.0%なっており、解消しつつある。

 

 高齢者に関しては、2040年代初頭までは増え続ける見込みだが、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)によれば2020年に1743万人だった65~74歳人口は減り始めており、2030年には1435万人となる。

その後は増減を繰り返しながら減って行く。

今後、増えるのは80歳以上だ。

 

 こうした状況で高齢者の雇用を拡大し続ければ、より年配の高齢者に労働参加を求めていくということになり、現実的でない。

 女性や高齢者の就業が進んだことを証明する明確なデータがある。労働供給の増加余地の大幅な縮小だ。天井が見え始めたということである。

 

(後編に続く)

 

【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授大正大学客員教授産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。主な著書に、ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある