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【日本社会を襲う人手不足問題】外国人人材受け入れ拡大がもたらす「若年層は外国人、年配者は日本人」のいびつな社会

外国人人材の受け入れ拡大が日本社会をどう変化させるか(写真は時事通信フォト)

外国人人材の受け入れ拡大が日本社会をどう変化させるか(写真は外国人労働者受け入れに関する関係閣僚会議の様子/時事通信フォト)

 

 独立行政法人労働政策研究・研修機構」(JILPT)が公表した「労働力需給の推計」(2023年度版)によれば、2040年の日本の就業者数は2022年より956万人少なくなるという衝撃の試算が明らかになった。

 

しかも、労働参加が期待される女性や高齢者の就業はすでに進んでおり、出生数の減少でさらに若い労働者は減っていく。果たして、この袋小路を切り抜ける手立ては残されているのか? ベストセラー『未来の年表』シリーズの著者・河合雅司氏が解説する。【前後編の後編】

 

 * * *
 総務省労働力調査によれば、2023年の就業希望者(就業を希望しているが、求職活動をしていない15歳以上の人)は233万人である。仕事を探している完全失業者178万人と合計すると411万人となる。

 

これに対し2003年は就業希望者が530万人、完全失業者が350万人の合計は880万人だったので、20年間で半減したことになる。

 

 女性や高齢者の就業で就業者不足を補うというこれまでの手法が限界に近づきつつあるというのに、政府は子育て支援策の強化や、働く高齢者の年金が減額とならないよう「在職老齢年金」の見直しといった相変わらずの政策を続けようとしている。

 

女性や高齢者のさらなる労働参加を推進したいということだろうが、増加余地の縮小が続くことを考えれば効果は限定的だろう。

 

 企業の取り組みも変わらない。人手不足というとすぐに「賃上げ」という発想になるが、就業者の総数が減るのだから、人材の争奪戦では問題の根本解決にはつながらない。

 

 就業者数をめぐっては、さらに悪い要素がある。

近年の出生数減少スピードの速さだ。5%を超す大幅下落が目に付くようになった。

 

総務省の人口推計(2023年10月1日現在)で20~24歳の日本人人口と、20年後にこの年齢に達する0~4歳の日本人人口を比較すると、後者が30.5%も少ない。

 

「増加余地」の掘り起こしどころか、新卒者が想定以上に減るのである。

今後の日本では大企業や人気職種においても、欲しい人材を安定的に採用できない状況が広がるものと見られる。

 もはや就業者の減少を前提として考えなければならないということだが、われわれにはどのような手立てが残されているのだろうか。

 

外国人人材受け入れ拡大は何をもたらすのか

 現在、政府や経済界が取り組みを急いでいるのが、外国人人材の受け入れ拡大である。厚生労働省によれば、2023年10月末時点の外国人労働者は204万9000人だ。

2013年の71万8000人と比べて2.85倍増となった。

 

 政府は、中長期滞在が可能な在留資格「特定技能」について、2024年度からの5年間の受け入れ枠を従来の2.4倍にあたる82万人へと一気に拡大させた。就業できる対象職種も広げる。
 
 JILPTは2040年の外国人労働力人口について、「ゼロ成長・労働参加現状シナリオ」では414万人、「成長実現・労働参加進展シナリオ」では453万人を見込んでいる。
 

 だが、人口が大きく減っているわけではない諸外国とは異なり、日本において外国人労働者の受け入れはかなりの副作用を伴う。

外国人労働力人口

外国人労働力人口

 

 労働者として期待する外国人の中心年齢層は20~30代だ。

この年齢層の日本人は激減していくため、大規模に受け入れるほど日本人の占める割合は低下することになる。

 

こうした点に配慮せず、目先の人手不足ばかりにとらわれて受け入れ拡大を続ければ、やがて日本は「若い年齢層は外国人中心、年配者層は日本人中心」という極めていびつな社会となりかねない。

 社人研は2060年代後半に総人口の1割を外国人が占めると推計しているので、これを基に計算すると、2040年代半ばには20~30代の15%弱が外国人となる。2070年には2割弱だ。

 

すでに多くの国が移民や外国人労働者の大規模受け入れによるトラブルや社会の分断に悩んでいる。国民の理解を得ずに受け入れ拡大を急げば、日本も混乱を来すこととなるだろう。

 

 来日する外国人人材が、日本企業が求める水準を満たす保証はない。今後の日本は高齢化が激しく進む。課題が山積する日本社会が外国人労働者の目にどう映るのかも考える必要があろう。

 

外国人によって日本人就業者の減少を補充する政策は、現時点で考えるほど簡単なことではない。これも限界がある。

 外国人人材の受け入れを否定するものではないが、同時に別の政策を進めなければならないということだ。

 

生産性向上の取り組みだけでは不十分

 むしろ現実的であり、急ぐべきは労働生産性の向上だ。

就業者1人1人が現状より能力を向上させることで、就業者数の減りをカバーするだけでなく、より経済成長しやすい環境をつくり上げるのである。

 

 労働生産性を向上させるには、就業者個々に対する知識教育や職能訓練が必要となる。並行して取り組むべきは全体の仕事量の削減だ。

デジタル化による省力化や業務の無駄の削減の徹底が求められる。

 

 だが、これらだけでは不十分だ。

全体の仕事量の削減には、事業の統廃合や企業の再編も含まれる。非効率な分野からの撤退が必要となる。

 

 業務量を減らすことで、就業者が減っても人材に余裕を持たせることができる。

こうして生み出した人材を成長分野へと投入するのである。

これができなければ、人口減少社会において経済成長の実現は難しくなる。

 

 就業者数の減少は、最終的には社会の作り替えを迫ることとなる。働き手の総数が減っていく以上、すべてを現状通り維持することはできないためだ。

企業の生産性向上はもとより、地域ごとの集住やコンパクトな都市形成といったことまで求められるようになるだろう。

 

 甘い推計に安堵して現実逃避したり、つじつま合わせのような政策を繰り返したりしていても出口は見つからない。

就業者不足で社会機能が停滞する事態に陥る前に、真の対策を推進することである。

(了)

 

 

【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授大正大学客員教授産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。主な著書に、ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。