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【安すぎニッポン】国内の卸業者が直面する苦境 マグロ、カニ、タコ、牛肉…アジア諸国に「買い負け」してモノが消えていく

大阪・道頓堀のタコ焼き屋で使うタコにも異変が(イメージ)

大阪・道頓堀のタコ焼き屋で使うタコにも異変が(イメージ)

 物価水準の低さに空前の円安が加わり、訪日外国人にとっては天国のような“安すぎニッポン”。

一方で日本国内で大きな問題となってくるのが、アジア諸国に対する「買い負け」である。

他国がモノを高く買えるようになったことで、国内に商品が入ってこなくなるのだ。

 

 日本の高級食材の代表ともいえるマグロ。

農水省が公表している1988年から2020年の「マグロ類」の輸入量は、46万トンから28万トンにまで減った。

 

 漁獲量の減少もあるが、輸入量が下がった理由について、『買い負ける日本』の著者で調達・購買コンサルタント坂口孝則氏はこう解説する。

 

「中国の富裕層の間でマグロ解体ショーの人気が高まるなど、アジアのバイヤーが日本の港のセリでも買い漁るようになっています。

 

卸業者に聞くと、中国系バイヤーが入った漁業系のセリでは、価格が1.3倍程度に跳ね上がるそうです。最近ではマグロだけでなく、ズワイガニなどの甲殻類も買い負けしている状態だと聞きます」

 

 マグロやカニなどの高級食材だけでなく、大衆的な食材だったタコにも影響が及んでいる。大阪・ミナミの道頓堀では、今年に入って異変が起きている。

 

地元のタコ焼き屋店主が語る。

「大阪のタコ焼きは、大粒で歯ごたえのあるアフリカのモーリタニア産のタコやないとアカンねん。せやのに、仕入れ値がどんどん上がって、今は10年前の2倍以上の1キロ1500円になった。

仕方なしに比較的安い国産のミズダコを使っとるけど、仕入れは不安定やし、食感も違うんやな」

 

 やむを得ず2割値上げしたというが、「外国人観光客はまだしも、関西のおばちゃん連中からは『高いんちゃうか』と相手にされんようになった」(同前)という。

簡単に価格を上げられない回転寿司業界の危機感

 大阪市内の水産物卸業者は苦境をこう語る。

「2010年の上海万博に大阪のタコ焼き屋が出店して、中国でブームが起き、他国にも波及した。

それまでタコの仕入れで主なライバルは欧州だったが、中国やベトナムなどアジア諸国も輸入するようになり、買い負けが起きているのです」

 

 魚介類の仕入れは年々困難になり、その影響をもろに受ける回転寿司業界では危機感が高まっている。回転寿司評論家の米川伸生氏はこう言う。

 

「マグロは中国に買い占められている状況ですが、その一方で養殖が可能なので、まだ値が落ち着いています。問題はタコなどの天然でしか獲れない輸入品です。

 

 回転寿司の場合、原価率が高騰しているからといって値上げすると、客入りが悪くなり売り上げがガタ落ちするので、簡単に価格を上げられない。だから、ネタもシャリも小さくなって、“ミクロ寿司”と揶揄されていますが、それもそろそろ限界です。

値段を上げないと利益が出ないのに、値段を上げると客が離れるので元へ戻すという苦しい状況です」

 

 天然モノに限られるネタが、回転寿司から消える将来さえ懸念される状況なのだ。

「買い負け」は海産物に限った話ではない。

 

「世界の牛肉市場では、日本は中国だけでなく、韓国や台湾にも買い負けているのが現実です。

国産の牛肉についても、中国のバイヤーが日本国内の買い手よりも3割以上高い水準で買っていく状況があります」(坂口氏)

日本企業のスピード感のなさも影響

 食糧以外の分野でも危機感は高まっている。

 コロナ禍の2021年には、半導体不足でトヨタなどの自動車工場が稼働停止や生産台数減に追い込まれ、パソコンやスマホなど様々な分野で生産に支障を来す状況が生まれた。坂口氏が語る。

 

半導体をめぐっては中国や韓国、台湾などアジア勢に買い負けたわけですが、問題は日本の購買力低下だけではないから根は深い。

 

企業関係者に聞くと、日本企業は半導体を調達する際に担当者が稟議書を書き、課長、部長、役員と細かい承認が必要で、その間に即決即断の外国企業に確保されてしまうケースが多いと話していました」

 

 経済力が低下したうえにスピード感がないから、国内からモノが消えていくというのだ。

「品質にとことんこだわる文化が日本に根強くあることも大きい。

たとえば木材などの原材料についても日本は諸外国から見ると異常な高品質を求める。

 

日本が高い値段で買える時代はそれでよかったが、他国のほうが高く早く買ってくれるという状況になると、日本にはどんどんモノが入ってこなくなることが懸念されるのです」(坂口氏)

 このままでは、さらに深刻な事態が表出することになりそうだ。

 

 

週刊ポスト2024年7月12日号