ますます深刻化する日本の少子化問題。2024年には通年で初めて出生数70万人を割る「70万人ショック」が起こる可能性も高い。
減り続ける人口対策として経営コンサルタントの大前研一氏は、「富裕層と高度人材を呼び込む」ことを提言する。
具体的にはどのような方策が考えられるのか、大前氏が解説する。
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今、先進国では人手不足が拡大しているが、自国内に少子化を解決する方策がないとなれば、日本などは外国人を大量に受け入れるしかない。
ただし、現在のように建設業や農林水産業、食品製造業、運輸業などの労働力を補うために、その場しのぎで人件費の安さを目当てに外国人を受け入れても無意味である。
では、どうするか? たとえば農業の場合は、日本の農家で5年以上働いて一定の試験に合格した外国人に農地の所有権や農民のメリットを付与するのだ。
そうすれば、農業振興につながるだけでなく、日本に定住・永住する外国人が増え、その人たちが家庭を持って子供をつくるだろう。
もちろん、これは漁業、畜産業、林業などにも当てはまる。
もう1つの手立ては海外の富裕層を呼び込むことだ。
富裕層は家族や一族郎党を連れてくるから人口が増える上、高額の住宅を購入し、家具や家電商品、ふだんの飲食などにもたくさんお金を使って経済が膨らむ。
その好例がスイスだ。所得税や相続税、贈与税などの低税率や金融資産の秘匿性、永世中立国という安全・安心によって世界中から富裕層を呼び込んで人口を増やし、世界トップクラスの1人あたりGDP(国内総生産)を維持している。
また、カナダは2022年から年間約50万人の永住移民を受け入れているが、その6割は富裕層をはじめとする「経済移民」だ。
オーストラリアはかつての白豪主義から転じて有色人種にも移民の門戸を開き、中国人やインド人の富裕層を特別に受け入れてきた。その結果、いまやオーストラリアの有力者の多くが中国系、インド系になっている。
アメリカも大企業、とくにGAFAMなどのIT企業はインド系トップが多く、アメリカ経済はインド系が動かしていると言っても過言ではない。
ところが、2020年に当時のトランプ大統領が、自国民の雇用確保を名目にH-1Bビザ(*ITエンジニアなどの「特殊技能職」を対象とした就労ビザ)の発給要件を厳格化したため、インド出身の専門技術者10万人以上が帰国を余儀なくされた。
その結果何が起きたか?
帰国した人たちが母国で起業し始め、瞬く間にインドのユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場ベンチャー企業)が、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位の71社(2024年5月時点)も誕生したのである。
日本も同様に、世界から富裕層と多様な高度人材を呼び込むことによって、富を創出するとともに人口を増やす努力を計画的に推し進めるべきなのだ。
“台湾化”は希望につながる
高度人材について、私が注目しているのは台湾だ。合計特殊出生率は0.87(2022年)で、日本、韓国、中国と同様に少子化が進み労働者不足になっている。
だが、その一方で台湾人は世界で活躍している。
代表例は、米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)、世界最大の半導体受託製造企業TSMC(台湾積体電路製造)の創業者モリス・チャン氏、世界最大手の電子機器受託生産企業・鴻海精密工業の創業者テリー・ゴウ氏である。
なぜ台湾人は優秀なのか? 「明日はこの国がなくなるかもしれない」「明日の我が身はどうなるかわからない」という危機感があり、世界のどこでも生きていけるように、世界共通のスキルである英語とITを集中的に勉強するからだ。
対照的なのが日本である。
いま日本の大学でトップクラスの学生は、多くが中国人留学生だという。
だが、彼らの大半は、高評価のアメリカやイギリス、オーストラリアなどの有名大学に行けなかった(母国では)二戦級の人材である。
その人たちに負けている日本人学生は情けない限りだが、英語もITも苦手だから世界に出て行くことはできない。
だから、ぬるま湯の閉鎖的な国内で、30年も上がっていない低賃金に甘んじるしかないのであり、言い換えれば、世界で通用しない人間を量産しているから、国力が衰え続けているのだ。
そういう中で、実は日本でも、富裕層を中心にインターナショナルスクールや国際的に通用する大学入学資格IB(国際バカロレア資格)が人気を集めている。
もともとそれらの学校は、日本に来た外国人駐在員たちが子供を通わせるケースが多かったが、今は日本人の親たちが、世界に通用する教育を求めて、あえて学費の高いそうした学校を選択している。
これらは、ある意味で世界のどこでも生きていくため=“台湾化”というべき動きである。日本人の間でも旧態依然とした文部科学省の学習指導要領に対する危機感が強まっているわけで、この“台湾化”が将来に希望を持てるカギとなっているのだ。
少子化を乗り越えるためのヒントはここにある。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年11月29日号