生命保険や医療保険と並び、保険各社の主力商品の「がん保険」。テレビCMなどで盛んに宣伝され、「国民の2人に1人ががんになる」と言われれば不安を感じるし、「加入していて助かった」と語るCMタレントの心情も理解できる。
だが、保険料に見合った保障を得られないケースもあるし、がんに罹患することなく一生を終える人もいる。「加入するかどうかの分かれ目」はどこにあるのか。
日本人のがん罹患率の高さを示す際、よく用いられるのが「2人に1人」の表現だ。
これは厚労省などの統計データに基づき算出された数字で、文言自体に間違いはない。
だが、別の角度から統計を読み込むと、意外な事実が浮き彫りになるという。
大手生保会社出身で、がん保険に詳しいFPの加藤梨里氏が指摘する。
「最新の統計を見ると、生涯でがんと診断される確率は男性が65%、女性は51%に達します。確率で言えば『2人に1人以上』となりますが、これはすべての年代の罹患者数をもとにした“ざっくりとした数字”に過ぎません。
年代別に見ると、60代までにがんと診断される人はむしろ少数派。
統計的に見れば5人に1人以下になります」
たとえば2020年の男性の肺がん罹患総数は8万1080人。
さらに、がん患者を年代別に見ると30代の罹患数は203人で0.25%と極めて低い。
40代では同1.45%、
50代で5.49%、60代で20.18%にとどまる。
70代でようやく42.93%に。
胃がん、大腸がんなど、主ながんについても同様の傾向がある(厚労省「令和2年全国がん登録罹患数・率報告」)。
「近年は保険会社も消費者をミスリードする表現には慎重になっていますが、『2人に1人』を強調し、長期にわたって保険料の支払いが見込める罹患率の低い世代を取り込んできたことは否めません」(保険代理店関係者)
50代以降はがんリスクを意識することが大切だが、必ずしもがん保険の加入を急ぐ必要はないと加藤氏は言う。
「『2人に1人』を逆に捉えれば、“半数はがん保険が無駄になる可能性がある”ということです。がん治療にかかる費用や、その間の生活費を工面できる収入や貯蓄があれば、がん保険は不要という考え方もできます。
がんの罹患率が10%以下の世代(60歳未満)なら、保険料支払いよりも貯蓄を優先するという選択もあるでしょう」
もちろん、がん罹患に対する備え方は人それぞれだ。がん保険が必要か否かの判断は、個々の年齢や家族構成、経済状況などによって大きく変わることは覚えておきたい。
※週刊ポスト2024年4月26日号