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「高齢者の運転事故」は糖質・塩分摂りすぎを疑え 「脳ドック」データでわかった意外な因果関係

高齢ドライバー

糖質と塩分の過剰摂取が高齢ドライバーの安全運転に与える影響に迫り、事故を防ぐために推奨される食事や生活習慣を紹介します(写真:Mills/PIXTA

 

人々の健康意識が高まり、医学の進歩によって本来人間の体に必要とされる栄養素の過剰摂取がもたらす影響が明らかになるにつれ、「糖質や塩分を摂りすぎないようにしよう」がある種の常識になりました。

 

糖質は糖尿病、塩分は高血圧のもととなり、それが命の危険をまねく大きな病気につながることが知られるようになったからです。でもじつは、糖質と塩分が高齢ドライバーの安全運転を阻害する要因にもなることをご存じでしょうか。

 

ここでは日本初の「自動車運転外来」を開設した認知症専門医・朴啓彰氏の著書『75歳を越えても安全運転できる運転脳を鍛える本』より、一部引用・再編集して、糖質と塩分の過剰摂取が高齢ドライバーの安全運転に与える影響に迫り、事故を防ぐために推奨される食事や生活習慣を紹介していきます。

糖質の過剰摂取が脳にダメージを与える

テレビや動画を見ていると、「糖質ゼロ」や「糖質オフ」を売りにした商品のCMを最近よく目にします。

糖質を制限すると、健康増進効果やダイエット効果に期待できる――ここに注目した飲料メーカーや食品メーカーが、健康や痩身を求める消費者の需要に応えようとして、さまざまな商品を開発している様子が伝わってきます。

 

とくにビールならびにビール系飲料、チューハイ類などについては、糖質オフ祭りといっても過言ではないような新商品のラインナップです。

麺類市場もその動きは活発で、おからやこんにゃくを主原料とする糖質ゼロ麺や、高たんぱく・低糖質をうたうインスタントラーメンが登場するなど、糖質制限ブームはとどまるところを知りません。

 

体の組織をつくったり、調子を整えたり、エネルギー源になったりと、人間の生命活動に不可欠な栄養素はおもに5つ。

たんぱく質」「脂質」「炭水化物」「ビタミン」「ミネラル」で、これらは“五大栄養素”と呼ばれます。糖質は、炭水化物の一員です。

 

ですので糖質は、本来人間の体にとって必要な栄養素ということになります。しかし、過剰に摂取してしまうと、さまざまな弊害を引き起こすのです。

 

 

糖質を摂りすぎると血糖値が上昇し、これが肥満や糖尿病の原因になります。

肥満や糖尿病は、神経の障害、目の障害、腎臓の障害、脳梗塞心筋梗塞など、ありとあらゆる合併症のリスクがあり、まさに“万病のもと”といえるのです。

だからこれだけ、糖質制限に注目が集まっているのでしょう。

 

そして最近は、糖尿病が脳にダメージを与えやすいこともわかってきました。

私の脳ドック研究においても、糖尿病の人に「白質病変」が出やすい傾向にあることが明らかになっています。

安全運転の天敵「白質病変」を増やす要因

白質病変とは、加齢、高血圧等の生活習慣病、喫煙、生活習慣の乱れなどによって生じる脳の毛細血管を中心とする脳虚血病変のことです。

 

40代までは喫煙者以外ほとんど発生しないものの、50代くらいから増え始め、60代以降に急増し、80代では半数以上の人に認められます(著者主宰脳ドック施設でのデータ分析より)。

 

私はこれまで、数万件に及ぶ脳ドック診察を行い、さらには事故を起こした人への聞き取り調査をとおしてMRIデータと照合するなどの研究を重ねた結果、白質病変(MRI画像の高信号域)と脳萎縮(脳室・脳溝・硬膜下腔の拡大)が進むと、交通事故や危険運転を起こす可能性が高まるということをつきとめました。

 

つまり、以下のような展開が考えられるということです。

 

糖質を過剰に摂取する→

糖尿病になる→

高齢者は脳に「白質脳症」が出やすくなる→

運転をする際に必要となる機能をつかさどる脳(=運転脳)が衰える→

交通事故や危険運転を起こす可能性が高まる!

 

なんと、糖質を摂りすぎると、高齢ドライバーの安全運転が脅かされるのです。

糖質は、ケーキなど甘いものだけでなく、イモ類を原料としたお菓子や料理、主食といわれる、ごはん・麺・パンにもたくさん含まれます。

 

すべて身近なものであり、普段から食べているものでしょう。

それが安全運転と関係があるとは思ってもみなかったはず。

しかし、無関係ではありません。

糖尿病になるリスクを高めるのと同時に、高齢ドライバーが事故を起こす可能性を高めてしまうのです。

 

食事の際に気をつけるべきなのは、糖質だけではありません。同時に気を配りたいのが塩分です。

塩分は五大栄養素を形成する「ミネラル」の一員で、糖質と同様、人間が生きていくためには必要な栄養素なのですが、こちらも過剰摂取が体に悪影響を及ぼします。

 

塩分を過剰に摂取すると喉が渇き、体が水分を欲します。

そして水をたくさん飲むと、

増えた水分量のぶんだけ血液が多く作られ、

血管にかかる圧力が上昇します。

つまりこれは、高血圧です。

 

慢性的な高血圧が、脳梗塞心筋梗塞動脈硬化、腎不全など、多くの病気の原因になることはよくご存じでしょう。

そして、高血圧の人は「白質病変」が発生しやすいこともわかっています。

 

塩気の多い料理ばかりを食べていると、巡りに巡って高齢ドライバーの安全運転を阻害する原因になるのです。

糖質と塩分はともに安全運転の敵――そのように覚えておきましょう。

ブレインフードで脳の健康を維持しよう

「いつまでも長く安全運転を続けたい」

「車がないと普段の生活に困る」

そう思っている高齢ドライバーのみなさんは、脳の白質病変をなるべく増やさない食生活を心がけましょう。

 

白質病変発生の有無は、脳ドックを受診し、頭部MRIを撮らないとはっきりしませんが、実態がわからなくても予防することならできます。

少なくとも、食生活を改善して無駄になることはありません。

 

真っ先に推奨できる食べものとして、生活習慣病の予防につながるものや、脳の活性化を促すとされるもの(「ブレインフード」と呼ばれるもの)などが挙げられます。

 

普段から健康に気をつかわれている人には、釈迦に説法になってしまうかもしれませんが、主要どころをひととおりピックアップして一覧にしてみました。

食事の際は、これらをできるだけ多く摂取することを意識してください。

 

(『75歳を越えても安全運転できる運転脳を鍛える本』より)

 

肉類を食べることはまったく構いませんが、動物性脂肪は控えたほうがいいので、なるべく脂身の少ない部位を選ぶようにしましょう。

 

注意点はおもに2つ。①やりすぎに注意することと、②長期間継続させることです。糖質制限は推奨できるものの、限りなくゼロに近づけようとするのはいただけません。

 

やせすぎたり、筋肉量が減少したりして、かえって不健康な体になってしまうからです。塩分についても、控えすぎるとミネラル不足により体の代謝の悪化をまねく可能性があります。

 

 

また、1食や2食、糖質や塩分を控えた食事をしても、ほとんど意味がありません。

白質病変をできるだけ発生させないため、そして増やさないためには、無理しない程度に糖質や塩分を控える食生活を、習慣化する必要があるのです。

食生活の改善以外にもできること

高齢ドライバーが長く安全運転を続けるためには、食事以外でも、日々の生活で気をつけたいことや意識したいことがいくつかあります。

 

代表的なものを紹介しておきましょう。

どれも運転脳の活性化(ひいては白質病変の増加防止)につながることばかりです。ぜひ今日から実践してみてください。

 

■家事をする(とくにずっと奥さん任せだった男性)

掃除、洗濯(&洗濯物干し)、料理、食器洗い、ゴミ出しなど、家事のほとんどは立ち仕事です。

しかも、多くは移動もともないます。

わざわざ散歩に行かなくても、それなりに足腰は鍛えられます。

そして、体を動かすことが白質病変の抑制につながることは、これまでの研究によって判明しています。

 

また、同居家族(そのほとんどは、男性から見た奥さん)との関係性が良くなります。

もともと仲が良いケースも、可もなく不可もなしのケースも、明らかにうまくいっていないケースも、一方がそれまでしていなかった家事をすることで、家庭内の雰囲気は格段に明るくなるでしょう。

人とコミュニケーションをとると、脳が刺激され、幸福度もアップします

 

■道中や行き先で“ちょい足し”行為をする

買い物、通院、地域コミュニティ活動への参加など、なんらかの用事があって外出をする場合、その道中や行き先でひと工夫することを心がけましょう。

このひと工夫とは、体に少し負荷をかけたり、脳に刺激を与えたりする行為のことです

 

例えば、時間に余裕のあるときは意図的に遠回りをする。

これで1日の歩数をわずかながらでも増やすことができます。

あるいは、建物の上の階に上がる際は、エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う。

高齢者にとって、これはかなりいい運動になります。

運動が運転脳にいい影響を与えることは、すでに述べたとおりです。

 

■質の高い入浴を心がける

 

お風呂の目的は、体の汚れを落として清潔を保つことだけではありません。疲れを取ったり、気持ちを落ち着かせたり、リフレッシュさせたり、良質な睡眠を誘ったりと、さまざまな役割を担っています。

 

そのすべてが、運転脳をケアするための資本となる、体の健康維持につながっているのです。

大げさではなく、効果的な入浴方法を身につければ、生活の質は大きく向上します。

 

疲労回復やリフレッシュを効果的に図り、安眠効果ももたらすのなら、38~40度のぬるめのお湯に10~15分。これがベストの基準になります。

 

 

朴 啓彰 医師