お金を持っていても、自分は貧困だと思い込む「貧困妄想」という症状がある。この症状に悩まされている当事者の話を聞いて、「共感できる部分はある」というのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏だ。
自身もフリーランスの立場である中川氏が、貧困妄想にもつながりかねない“言いようのない将来不安”について考察する。
* * *
4月23日、私も出演した『ABEMA Prime』(ABEMA TV)で「貧困妄想」というテーマが取り上げられました。
それなりにお金を持っているのに、「自分は貧困だ」「お金がない」と思い込み、お金を使うことに極端な不安や恐怖を抱く症状のことです。
うつ病の症状のひとつとされています。
番組には元々年収900万円で、1500万円の貯金がある、40代後半の男性が登場。
「貧困妄想」に陥ったことで、家族(妻・高校生と大学生の子供)は家を出てしまったと言います。
現在は仕事を休職し、疾病手当金を受給して生活しており、家計支出の内訳は、住宅ローン7万円、電気代1万2000円、通信費7000円、食費1万円、保険料5万円、通院費&薬代1万6000円、貯金5万円で、残りがその他です。
よくぞ毎月5万円を貯金できているな、とも思うのですが、VTRを見ると日中は家の電気は消すなどして、とにかく支出を抑えるべく節約を心がけている様子がうかがえます。
食事は1食69円のシリアルを1日に3回食べ、たまの贅沢に100円のレトルトカレーを食べると言います。
同氏は元々年収900万円を得ていたということからも、それなりに優秀な方なのだろうと思いますし、1500万円の貯金も立派なもの。
スタジオとつないだ中継時の身なりもボタン付きの白いシャツをきていて小ぎれいな恰好をしていました。
貧困妄想の例としては、「貧乏だと思い込み、このままでは餓死すると考える」「実際には借金がないのに、多額の借金があると思い込む」「土地や財産が差し押さえられ路頭に迷うと信じ込む」などがあるようです。
そして、仕事ができなくなって、現実にお金に不自由するようになることもある。
同氏も「貧困妄想」によって休職せざるを得なくなり、さらには通院費用が月の食費以上にかかるようになった。「貧困妄想」さえなければ全部解決する問題なのに……と感じてしまいます。
年金はもらえるのか? 物価がさらに上がったらどうするのか?
とはいえ貧困妄想については、私も一部共感できる部分があります。
何しろ、自分はフリーランスで日々の収入も不確かな身ですし、老後の年金だってそれなりの額の厚生年金が受け取れるサラリーマンと比べれば圧倒的に低い。
私は第二次ベビーブーム世代でもっとも人口の多い1973年生まれで、このまま少子高齢化が進めば、受け取れる年金の額なんて雀の涙になっているのでは……という不安を持ってしまうのです。
今は貯金があるものの、円安がこれ以上進行し、食材の価格が高騰した場合どうなるか。それこそ、今は1リットル300~400円ぐらいで買えるサラダ油が1000円とかになる未来だって考えられる。
そうなると、同氏のように「とにかく安い食事をしなくてはマズい」と考えるようになってもおかしくない。
それこそ、路傍に生えているヨモギをおひたしにしたり、エサ代をかけないためにルアーを使って魚を釣る、とかを考える。
何しろ今の日本には希望がありません。外国人様が「このクオリティがたったの10ドルなのか! アメリカだったら50ドルだぜ!」なんて言うような状況にあり、普通の外国人が当たり前のように買えるものを、日本人の多くが買えなくなってしまっている。
居酒屋だって、1回行けば1人8000円は当たり前、なんて世界になるかもしれないわけで、私のように固定給がない人間はそういった不安を持ってしまいがちなのです。
そりゃ今こそ貯金はそこそこありますが、でも、とにかく言いようのない将来不安があるのです。
だから、ABEMA Primeに出演した男性の「貧困妄想」は他人事とは思えません。
皆さんは将来は不安ではないですか? 不安でないのならば、その自信がどこから来るのか教えてほしいです。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。