卒業式シーズンを迎え、今年もSNSなどで話題になっているのが、PTAから卒業生に贈る「記念品問題」だ。
毎日新聞が2月28日付で〈PTA未加入で卒業記念品なし 「ほしいなら実費払って」は是か非か〉と題した記事を配信すると、ネットなどで大きな反響があった。
PTAに加入しない保護者が全国的に増えているなか、子供にとって晴れの舞台である「卒業式」をめぐり議論が巻き起こっている。
卒業に際してPTAから贈られる「記念品」には、卒業証書をしまう筒や、卒業年度や名入りの文具、小物が選ばれることが多いようだ。それらの代金は「PTA会費」から支出されるため、会員以外の児童生徒に贈ることには「ただ乗りだ」「貰うなら実費を負担すべき」などの批判が一部にある。
前掲記事に登場した「全国PTA連絡協議会」代表理事のコメントによると、「PTAの加入・未加入に関係なく、全員に記念品を配る学校もあれば、加入者のみに配るところもあり、対応は各学校で分かれ」ているが、「未加入者が増えた学校では、加入者が未加入者分の記念品代を負担しきれず、記念品贈呈をやめた学校も」あるという。
そもそもPTAへの加入は任意のため、学校や地域によっては半ば強制的に参加が求められることなどが近年は問題視されることも増えている。実際に、PTAへの未加入を選択した場合、どのような状況に置かれるのか。
なにか不都合なことが生じるのか。40代女性(会社員)が経験したケースを、フリーライターの吉田みく氏が報告する。
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小学生と中学生、2人の子供を育てる関東在住の会社員・ミサキさん(仮名、45歳)が言う。
「私が住む地域の小学校でも、PTA加入はもちろん任意です。
が、『面倒だね』と言いつつ大半の保護者が加入していて、未加入は少数派。
それでも私が未加入を決めたのは、PTA活動に参加するために会社を休めないことが理由です。夫の給料だけでは生活が厳しいので、できるだけ働きたい気持ちがあります」
未加入であれば、年数千円というPTA会費の負担は生じない。
しかし、かえってそのことが、子供の卒業時にある種の“後ろめたさ”を生じさせたという。
「我が家が未加入とはいえ、子供がPTA主催の行事に参加できないなどの区別をされたことはありません。卒業記念品のマグカップもいただきました。
会費を払っていないので申し訳ない気持ちにはなりましたし、活動に参加すべきだったかと悩むこともありましたが、やはり今の私の仕事の状況では難しく、中途半端に参加したほうが迷惑だったと思います。
会員の保護者の方々には感謝の気持ちでいっぱいです」(ミサキさん、以下同)
PTAに加入しないことで、平日は仕事に専念できるメリットがあったが、保護者同士の繋がりが作れなかったり、学校や地域の情報を得る機会が少なかったなどのデメリットも感じたそうだ。
「私は会社員、立場が違います」
来年度も未加入を選択するつもりだったが、先日、実母から「PTAに参加すべきだ」と言われてしまったという。
「『PTAは面倒なこともあるけれど人との繋がりができてメリットもある』『会費を払わずに記念品をもらうなんて』『子供がかわいそう』などと指摘されました。
母の言い分もよくわかりますが、フルタイムで仕事をしていますし、簡単に休める仕事ではありません。
私の代わりに母がPTA活動に参加できるか聞くと、『それはあなたがやるのよ!』と怒られてしまいました。母は専業主婦、私は会社員、立場が違います」
過去にはPTA活動はせずに会費だけ納めることも考えたものの、「会員になれば子供が在校中に最低1年間は何らかの役職が回ってくる」と聞き、二の足を踏んだそうだ。
「ネットニュースで卒業記念品問題の記事を見た時、様々な意見が飛び交っていることを知りました。
熱心にPTA活動をしている人からすると、未加入者は対応に困る存在なのかもしれません。この件を知るまで、記念品を渡すか否かで議論されていることすら気付かなかったです。
それなら記念品を受け取らなくてもと思うのですが、子供が悲しみますよね。
実費が請求されれば、もちろん支払う気持ちはあるのですが」
「いっそ卒業記念品を廃止しては」
以前貰った卒業記念品のマグカップは、使われることなく食器棚の奥にしまわれている。そのこともあり卒業記念品に対するモヤモヤもあるという。
「保護者がよかれと思って選ぶ卒業記念品は、果たして子供からするとどうなのでしょうか。クラス全員の名前が書かれたもので、貰った直後は眺めていましたが、今は存在すら覚えているのか……。
私自身、自分が卒業した時にどんな記念品を貰ったか、はっきり覚えていません(笑)。
それならいっそ卒業記念品を廃止するのも時代の流れとしてアリだと思いました」
実母からはPTA加入を強く勧められているミサキさんだが、来年度も加入するつもりはないという。「これから子供の学費が多くかかるので仕事は休めません。
大変申し訳ないですがPTA活動は厳しいです」と話していた。
賛否が飛び交うPTA活動の中でも、特に卒業記念品に対しては、「未加入者にはあげなくていい」などのシビアな意見があるようだ。加入未加入については保護者側が決めることであり、子供には関係ないので判断が難しくなっている印象も受ける。
地域や学校ごとに事情は異なるが、慣例によらず、PTAのあり方を時代に合わせて対応する必要はあるだろう。
【プロフィール】
吉田みく(よしだ・みく)/埼玉県生まれ。大学では貧困や福祉などの社会問題を学び、現在はフリーライターとして人間関係に独自の視点で切り込んでいる。マネーポストWEBにてコラム「誰にだって言い分があります」を連載中。同連載をまとめた著書『誰にだって言い分があります』(小学館新書)が発売中。