ドラッグストアで売っている「サプリメント」は薬と違って副作用もなくて、身体にいい─そう思っていませんか?
だが、良かれと思って飲んでいたサプリに効果が期待できないどころか、状況によっては逆効果になることもある。
大手通販サイトで販売されているNMNサプリを見ると、価格帯は数千円から、高いものでは数万円まで開きがある。
「一口にNMNサプリと言っても成分の含有量も価格も様々で、製品によっては思わぬリスクが潜んでいる可能性も否定はできない。
NMNはマウス実験以外に、人でも高齢者の歩行機能の改善などが報告されていますが、人への効果に関しては臨床試験などさらなる検証が求められる段階です」(澤邊氏)
中には効果がないという研究結果も。1兆円のサプリ市場
富士経済の調査によれば、サプリメント市場はコロナ禍の2021年に初めて1兆円を突破し、2025年には1兆967億円に達すると予測されている。
健康志向の高まりに伴い、食事で摂りきれない栄養を補いたいというニーズが増しているのだ。
だが、テレビCMや広告でよく見るサプリのなかには「効果がない」という研究結果が出ているものも少なくない。
米・ボストン在住の内科医・大西睦子医師が語る。
「軟骨の成分であるグルコサミンを、関節痛の緩和を期待して飲む方は多い。
ですが、2017年にオランダ・エラスムス大学の研究者らが発表した論文ではひざ痛を軽減せず、ひざの機能も改善しないと示されました。
それどころか、胸焼け、頭痛、アレルギー反応などが報告されています」
大西医師は、「目に良い」とされるブルーベリー(アントシアニン)についてもこう指摘する。
「アントシアニンに抗酸化作用があるとされているのはたしかですが、多くの研究で、サプリの摂取による視力回復の効果は確認されていません」
青魚や植物油などに含まれるDHA・EPAは、中性脂肪の減少や認知症の予防効果が期待されているが、米国の研究者が複数の学術論文を比較・分析した結果、サプリを飲んでいる人とそうでない人で健康状態に差がなかったと示されている。
サプリメントに詳しい東海大学医学部客員教授の久保明氏が言う。
「DHAとEPAは1日1グラム以上摂取すると不整脈が起こると報告されています。
サプリだけで1グラムを超えるものはありませんが、普段からサバなどの青魚を食べている人がサプリも摂ると、過剰摂取となってしまうので要注意です」
サプリは健康食品。用法用量が定められていない危険
予期せぬリスクを警告するのは、ナビタスクリニック川崎院長の内科医・谷本哲也医師だ。
「薬は効果効能、用法用量が法的に定められ、添付文書で副作用などの注意喚起がなされていますが、サプリは健康食品なので摂取法が不明確です。
そのため、効果が得られない時に飲む量を増やしてしまい、過剰摂取でかえって健康を害する事例も報告されています」
谷本医師はその事例として、男性機能の向上が期待され、“セックスミネラル”とも呼ばれる亜鉛を挙げる。
「過剰に摂取すると亜鉛の血中濃度が上がりすぎてしまうため、頭痛、めまい、吐き気や嘔吐のほか、長期間に及ぶと貧血や免疫力低下などにつながる可能性があります」
血流改善や肝機能を高める効果が期待されるウコンも、逆効果になる危険性があるという。
「過剰摂取で胃潰瘍や皮膚炎、肝機能障害を起こす事例が報告されています。これから忘年会シーズンですが、お酒を飲みすぎたからといってウコンを過剰に摂取することは避けたほうがよいでしょう」(谷本医師)
疲労回復で代表的なビタミン群のサプリは男女問わず服用者が多いが、「ビタミンA、D、E、Kなどの脂溶性ビタミンは、摂取しすぎると体の外に出ていかず、体内に溜まっていく」(大西医師)とされる。
それにより、望んでもいない結果がもたらされることもある。前出・久保氏が言う。
「科学的な証拠に基づいて予防医療に関する勧告を提供する、米国予防サービスタスクフォースの『ビタミン・ミネラルの勧告案2022』はビタミンEについて警鐘を鳴らしています。
1日の摂取量が180ミリグラムを超えると、前立腺がんや血管障害などのリスクを高めると考えられています。
加齢による骨密度の低下に備えてカルシウムを服用する場合も注意が必要だという。
「カルシウムは普段の食事で摂取するほうが望ましく、骨粗鬆症の予防でサプリを摂るとかえって過剰になるリスクに注意が必要です。
過剰摂取で腎臓に結石ができたり、動脈硬化が進んだりする可能性もある」(谷本医師)
ほかにもサプリには、薬との飲み合わせで生じるリスクもある。その詳細を次項で見ていく。
飲んでいるサプリは医師にも報告。食品だから関係ないは間違い
「関節痛などの症状緩和を期待して服用されるサプリ・グルコサミンですが、抗凝固薬のワルファリンとの併用で、INR(採取した血液が凝固するまでの時間を測定する検査。
ワルファリンの効き具合を確認する)の値が急上昇したとの報告が欧州であったことで注意喚起されるようになりました」
そう語るのは、薬剤師の長澤育弘氏(銀座薬局代表)だ。
食品の安全性について科学的な情報を提供するEUの専門機関・欧州食品安全機関の報告(2011年)によると、グルコサミンとワルファリンの併用でINRが急上昇した患者のなかには器官から出血した例があったほか、植物状態になった例も1件あったという。
「作用機序は不明ですが、グルコサミン摂取によりワルファリンの効果が増強されることが確かめられました。
グルコサミンの摂取を中止するとINRが正常値に向けて下がり始めた症例が大部分だったことから、『相互作用の因果関係が強く示唆される』と報告されています」(同前)
サプリの服用にあたっては、薬との「飲み合わせ」に特に気をつける必要がある。組み合わせ次第では、思いもよらぬ重篤な健康リスクがあるからだ。
厄介なのは、サプリを摂取する人の多くが「薬とは関係ない」と思ってかかりつけ医や薬剤師に伝えていないことだ。
薬の種類は「おくすり手帳」の記載で確認できるが、医者としてもサプリの確認は患者の自己申告に頼るしかない。
前出・谷本医師が言う。
「服用中のサプリを自ら申告する患者さんは少ないうえに、医師側も根掘り葉掘り確認することは少ない。
しかし、薬との飲み合わせが悪ければ深刻な症状を引き起こすことがあり、『食品だから薬や症状と関係ない』との誤解は健康トラブルの引き金となり得ます」
サプリとの組み合わせによって薬の効果が弱まったり、増強されたりするリスクがある。薬が効かなくなることで新たな薬が処方される“悪循環”に陥る懸念もあるため注意が必要だ。
サプリメントと薬の「危ない飲み合わせ」リスト
具体的にどんな危険な「飲み合わせ」があるのか。本誌は厚労省の情報発信サイトの記載や医師、薬剤師への取材をもとに、長澤氏の監修によるリストを作成。馴染みが深いサプリと薬の、注意すべき組み合わせを一覧にした。
薬と飲むと効きすぎてしまう?専門家に聞いた症例レポート
老化予防の代表的なサプリ・コエンザイムQ-10は高血圧の治療薬(降圧剤)との飲み合わせに注意したい。
「コエンザイムQ-10はもともと一般名ユビデカレノンという医薬品で、強心剤として使われます。
降圧剤との組み合わせで血圧が過度に下がる機序は不明ですが、多くの症例が報告されるので要注意です」(長澤氏)
同じく抗酸化作用が期待されるセサミンも、降圧剤や糖尿病治療薬との組み合わせで「数値が下がりすぎる」場合がある。
血圧や血糖値が下がりすぎればふらつきや転倒などのリスクが生じ、骨折による寝たきりの原因にもなる。
これから飲む機会が増えそうなウコンは糖尿病治療薬との併用で血糖降下作用が高まって「低血糖」のリスクが指摘されている。風邪予防などを目的にドリンクや錠剤で気軽に摂れるビタミンCは脂質異常症治療薬(スタチン系)や抗凝固薬(ワルファリン)の効果を弱める場合がある。
薬剤師の堀美智子氏(医薬情報研究所エス・アイ・シー取締役)は、カルシウムと骨粗鬆症治療薬との組み合わせに注意を促す。
「『骨を丈夫にしたい』からと、カルシウムと骨粗鬆症薬のビスホスホネート製剤を同時に摂取すると、胃の中で両者が結合してしまい、薬の作用が発揮される前に体外に排出されてしまうリスクがあります」
亜鉛は糖尿病治療薬との組み合わせで作用を強める恐れがあるほか、抗リウマチ薬の効果が減退する可能性が指摘されている。夜間頻尿に悩む人に人気のノコギリヤシは、抗凝固薬などとの組み合わせであざや出血のリスクが高まる恐れがある。
欧米では男性の勃起機能改善の目的でも用いられるL-シトルリンは、降圧剤やED治療薬との組み合わせで血圧が下がりすぎることがある。
「L-シトルリンの血管拡張作用により勃起しやすくなるとされますが、血管の拡張は血圧低下を招きます。ED治療薬も特定部位の血管を拡張して勃起しやすくするので、血圧低下作用が増強される恐れがある」(長澤氏)
薬とサプリの危険な組み合わせを意識して、少しでも不安があれば医師や薬剤師に確認したい。
※週刊ポスト2023年12月1日号