人が亡くなると、日本ではほぼ100%に近い割合で火葬が行なわれる。その後の埋葬については、一般的なお墓から、合祀墓、永代供養墓など、いくつかのバリエーションがある。
最近では“亡くなった後は自然に還りたい”といった考え方が広まったのか、里山にお骨を埋める樹木葬や大海にお骨を撒く散骨などを選ぶ人も増えている。そうしたなか、アメリカではさらに“進化”した埋葬方法が登場しているのだという。
正覚寺(京都市嵯峨)の住職でジャーナリストの鵜飼秀徳氏が次のように説明する。
「アメリカのシアトルにあるRECOMPOSE(リコンポース)というベンチャー企業が考案した『コンポスト葬』は、“究極の自然葬”とも言える方法です」
葬儀を終えた遺体を裸にしてウッドチップを敷き詰めた容器に入れる。これを二酸化炭素や窒素、酸素、水分をコントロールできるカプセルに収めて、バクテリアなどの微生物を増殖させる。遺体は30日ほどで腐敗し尽くし、分子レベルで分解され、その後2~3ヶ月で完全に土になるのだという。
「骨はなかなか腐敗しません。カプセルを回転させるなどして、通気を促進し、微生物の働きを活性化させることで骨の分解も可能にするのだそうです。骨はミネラルが豊富です。これが混ざることで亡骸が肥沃な土になるのです」(鵜飼氏)
エコな葬送法
アメリカは火葬と土葬が混在する社会だ。火葬は二酸化炭素を発生させるし、土葬については亡骸以外に様々な装飾品なども一緒に埋めるので環境への負荷が大きいとする考え方もある。
「また、亡くなった方の体にホルムアルデヒドなどの防腐剤を注入して腐りにくくするエンバーミングという処理をしてから土葬することもあり、これもエコじゃないと批判する向きがあるようです。
その点コンポスト葬は化石燃料を使って燃やすこともしないし、遺体1人分で約85リットルの土壌を得ることもできる。とてもエコロジカルな方法だと考えられているのです」(鵜飼氏)
日本でも可能なのか
世界のエコロジストから注目されているコンポスト葬だが、日本が取り入れることはできるのだろうか。
「現状は難しいでしょうね。コンポスト葬の根本的な考え方は、土になって草木の肥料となることで自然に還ることです。
ところが日本ではたとえ土になっているとはいえ、それを野原に撒くと、死体遺棄罪に抵触する恐れがあります。そもそも人の死体を堆肥に加工するということが“死体損壊”に当たると判断されるかもしれません」(鵜飼氏)
アメリカでもコンポスト葬が認められるのは簡単なことではなかったようだ。
「開発したリコンポースの社長は上院議員に働きかけるなどのロビー活動を繰り返し、遺体を堆肥化させるための法整備を勝ち取ったようです。
地道な活動が功を奏して、現在ではコロラド州、カリフォルニア州、オレゴン州など、幾つかの州で合法化されているようです」(鵜飼氏)
コンポスト葬に近いのは「日本古来の土葬」だと鵜飼氏は言う。
「土葬はかつての日本では珍しいことではありませんでした。腐って土になる木製の棺桶に収めて、そのまま埋めるので、時間をかければいずれはすべて自然に還ることができます。
ただ、様々な事情から現在の日本では99.9%が火葬です。土葬にしてほしいと願っていたとしても、受け入れてくれる墓地を見つけるのは簡単なことではありません」(鵜飼氏)
2023年の1年間に国内で死亡した日本人は、統計を取り始めて以来最多となる約156万人だった。
死亡者数は増え続け、2040年には約167万人に達すると試算されている。
日本は1年間に、政令指定都市一つ分ほどの人が亡くなる「多死社会」だ。
そうしたなかで、“完全に土に還る埋葬”が広がる可能性はあるのだろうか。
コンポスト葬の根本的な考え方は、土になって草木の肥料となることで自然に還ること(米リコンポース社サイトより)