100円のたこ焼きで知られるディスカウントストア「ラ・ムー」。一部店舗、年末年始を除き、基本24時間営業(写真提供/大黒天物産)
なぜ“100円たこ焼き”が実現できるのか──。激安スーパーなどを展開する大黒天物産は、昨今の節約志向の高まりも追い風に、業績を好調に伸ばしている。
物価高の逆風を受けながら、他の激安スーパーよりも安い商品を展開できる理由とは?“100円たこ焼き”誕生の経緯とコストを抑える工夫を紹介した前編記事に続き、本記事では「安く仕入れて安く売る」同社のビジネスモデルの秘密に迫った。【前後編の後編】
6個入り「たこ焼き」1パックを税込100円で売り続けているディスカウントストア「ラ・ムー (LAMU)」と「ディオ(DIO)」を運営する大黒天物産(東証プライム・2791)は、岡山県倉敷市に本社を置き、西日本を中心に店舗を展開している。
同社は1986年に加工食品の卸売を目的として創業。
その後、食料品や日用雑貨の販売にも業務を広げ、1997年からスーパーを出店している。
創業1年目の売り上げは約3億円だったが、2024年5月期(通期)は売上高2700億円を突破。2025年5月期は売上高2924億円を見込んでいる。創業以来、38期連続の増収を更新している。
初めて「ラ・ムー」を訪れる人は、商品の安さに驚くだろう。
マネーポストWEB記者も1月上旬、石川県内の店舗を訪れたところ、縦長の大きなビニール袋に入った自社製造のポップコーン(塩味)が税込100円、缶コーヒーが税込35円、オリジナル弁当が税込213円、3斤の食パンが税込213円……、とにかく安い。
同店をよく利用する地元住民は次のように語る。
「自社商品だけでなく、メーカー商品も安いんです。
たとえば、いつ行ってもカルビーのポテトチップスのフレンチサラダ味が常に税込93円なんですよ。
今、この商品が税込で100円を切っている店は周りでは見たことない。箱買いしちゃいます。
石川県は激安スーパーセンターのPLANT-3、食料品が充実する複数のドラッグストアチェーンや地元スーパーチェーン、業務スーパーなど安く食料品を買える店がたくさんありますが、ラ・ムーはその中でも群を抜いていますね」(50代会社員)
にぎり寿司10貫入りで税込321円。たこ、いか、えび、サーモンなどが入る
支払いは「現金」と「自社キャッシュレス決済」だけの理由
激安販売を実現できる秘密は、徹底したローコスト運営にあるという。大黒天物産の広報担当が説明する。
「お客様の決済を現金と、数年前に導入した自社独自のキャッシュレス決済『大黒天Pay』だけにしているのも安く商品を提供できる理由の1つです。クレジットカードやQRコード決済など、他社のキャッシュレスサービスを使うと、結構なパーセンテージの決済手数料がかかります。
自社独自のキャッシュレス決済を使えば、それらの決済手数料を負担せずに済むので、商品をより安く売ることができます。他社のカードなどの決済サービスは何度も検討しましたが、どうしても“手数料の壁”があり、見送った経緯があります」
同社では、安く仕入れて安く売るために様々な工夫を凝らしている。売れる商品を絞り込み、その上で同じ商品を大量に仕入れることで取引先業者に仕入れ値を下げてもらう、段ボールのまま店内に商品を陳列することで人件費などのコストを削減する……、そうして削減したコストは、低価格という形で顧客に還元する方針だ。
PB(プライベートブランド)商品「D-PRICE」の開発にも注力している。「ESLP(エブリデイ・セーム・ロープライス)」による地域最安値価格を目指し、市場調査から、低価格にするための研究、商品化、原材料の調達、製造、物流まで自社で一貫して行うことで商品を安く提供できるという。
PB商品は約1000種類に上る。開発した商品は発売後も定期的にチェックし、時代の変化や市場動向、顧客ニーズに応じて改良する。より安くするために、過去には外蓋を外したヨーグルトなどが登場したこともあり、コスト削減に知恵を絞ったユニークなPB商品も多い。
PB商品の豆腐は3個パックで58円(税込)。(写真提供/大黒天物産)
PB商品の「讃岐うどん」は1袋18円(税込)。(写真提供/大黒天物産)
関東以北への出店へ意欲
現在、「ラ・ムー」は九州、中国、四国、近畿、東海、北信越エリアに130店舗以上、「ディオ」は中国、四国、近畿に40店舗以上を展開する。帰省や旅行、出張などで「ラ・ムー」を訪れたことのある東日本在住の人々からは、自分が住んでいるエリアへの進出を望む声が上がっている。
今後、関東以北にも出店の可能性はあるのか。
「関東や東北、北海道にも出店してほしいという声は多くいただいており、私どもも全国出店したいと願っております。関東に置いている業務拠点では店舗用地の情報収集も行なっています。早く東京に進出してほしいとの声もいただきますね。店舗進出を心待ちされている全国の方のために頑張りたいです」(広報担当)
大黒天物産が運営する激安ディスカウントストアが全国を席巻する日も、そう遠くないかもしれない。
※本文中の価格はいずれも2025年1月現在
取材・文/上田千春




