「パクパク」で販売される「税込100円」のたこ焼き
空前絶後のタコの価格高騰が続き、たこ焼き専門店などが値上げに踏み切るなか、西日本を中心に店舗展開する激安スーパーチェーンが、6個入りたこ焼き1パックを「税込100円」で売り続けて注目を集めている。
なぜ100円で提供できるのか、ボリュームや美味しさへのこだわり、誕生秘話を取材した。
【前後編の前編】
税込100円の「たこ焼き」を販売しているのは、岡山県倉敷市に本社を構える大黒天物産(東証プライム・2791)が運営するディスカウントストア「ラ・ムー(LAMU)」と「ディオ(DIO)」。
どちらも食料品を中心にした激安スーパーとして地元住民に親しまれ、「ラ・ムー」は本拠地の岡山県をはじめ、九州、中国、四国、近畿、東海、北信越エリアに130店舗以上、「ディオ」は中国、四国、近畿に40店舗以上を展開する。
直径4.5センチ程のたこ焼きが1パックに6個入っている
“100円たこ焼き”は、これらの店舗に併設する「パクパク(PAKU PAKU)」の店頭でスタッフが1個1個焼いて売っている。
平日も開店時から客が次から次へと訪れ、土日は大行列もできるほどの人気だという。
記者は、スーパー巡りを趣味にしている西日本在住の友人から「たこ焼きを100円で売っている、信じられない店がある」と聞き、実際に近畿エリアのラ・ムー店舗を訪れて噂の「たこ焼き」を買って食べて驚いた。
1パックに直径4,5センチ程度のたこ焼きが6個入り、鰹節ものっている。
とても税込100円には思えないボリュームと味だった。
中はとろっとし、小さいながらも、たこがきちんと全部のたこ焼きに入っている!
たこ焼き、ソフトクリームなどを販売する100円ファストフード店「パクパク」は午前10時~午後7時まで営業(写真提供/大黒天物産)
最初はお得意様への“おまけ”だった
いつから、どのような経緯で「100円たこ焼き」を販売するようになったのか。「ラ・ムー」「ディオ」を運営する大黒天物産の広報担当に話を聞いた。
「2002年、『ディオ本店』(岡山県倉敷市堀南)で初めて100円のたこ焼きを販売し始めました。
実はそれ以前、同市内の『ディオ水島店』など別の店舗で、たくさん買い物をしていただいている方やよく買われる方など、一部のお客様に“どうぞお持ち帰りください”と、たこ焼きを焼いてプレゼントとしてお渡ししていた歴史があるんです。
“おまけ”のようなものだったのですが、お客様たちから“美味しい”と大変好評をいただき、人気を呼んだことから、店で販売しようということになったのです」
その後、2003年に新業態の複合型商業施設として出店展開を開始した「ラ・ムー」でも、たこ焼きを販売するようになった。
値段は発売当時から現在まで、ずっと税込100円のまま。
2002年当時は5%だった消費税は2014年に8%、2019年からは10%(酒類・外食を除く飲食料品、新聞は8%の軽減税率)に引き上げられ、昨今は物価高、光熱費、人件費、物流費、資材費などの高騰といった厳しい環境が続くが、今も税込100円の価格を守り続けるのはなぜか。
「驚きの安さでクオリティを保つのが、ディスカウントストアの商売をしている私どもの会社の一番の根源です。
100円という驚きの安さにこだわりますが、品質を落とすことは一切しません。たこ焼きの粉も、一般的に400円、500円で売られているたこ焼きと遜色ないものを使用しております。
たこ焼きの大きさも2002年の発売当時と同じです」(広報担当、以下同)
たこ焼きには爪楊枝より太くて長い串が1本添えられており、容器には輪ゴムがかけられ、さらに無料のレジ袋に入れて手渡される。
「パクパク」の店頭では、たこ焼きを焼く様子を窓越しに見ることができる。焼き上がるのを待つ間、スーパーで買い物をする客も多い
振動でたこ焼き自身が回転して焼き上がる
このご時世、たこ焼きの品質と味を保ちながら、こうした梱包資材も含めて1パック税込100円の価格を実現できる理由を尋ねた。
「そのために様々な工夫をしています。
たとえば焼き台もその1つ。
当初は鉄板でしたが、今は銅板を使っています。
焼く時間の短縮や効率化を図るために研究を重ねたところ、銅の方が熱伝導率がよく、焦げ付きが鉄に比べて少ないことから、銅版に変えたんです。
弊社のたこ焼きのための銅板を作ってくれる会社を探し、特注しました」
とはいえ、銅板にも難点があるという。
「鉄と比べると銅は柔らかいんです。鉄板だと焼く時に通常の千枚通しを使っても傷は比較的つきにくいですが、銅板は傷がつきやすい。
そこで大阪のたこ焼き専門店が焼く時に竹串を使用されていたのを参考にして、弊社も銅板に傷がつきにくい竹串を使うようにしました。
銅板は熱伝導率が高いため曲がりやすく、使用可能年数は一般的に鉄板と比べると少し短いので、少しでも銅板の寿命が延びるように工夫をしてコスト削減に努めています」
焼き方にも工夫を凝らす。広報担当が続ける。
「たこ焼きは生地を流し込んでから焼き上がるまで20分ぐらいかかり、複数の銅板で同時進行で焼いていくのですが、竹串でひっくり返した後の最終工程で銅板がガタガタと振動するようになっています。
振動によってたこ焼きが自分でくるくる回転して仕上げる仕組みで、上手に焼き上がるようになっています。
粉の混ぜ方のレシピや生地の作り方、焼く手順・時間などを全店統一しており、日が浅い人でも上手に焼けるようにして100円で美味しい品質を実現しています」
たこ焼きは1パック100円。5パック、10パックとまとめて買っていく客も多い。券売機には「たこ焼き 5パック 500円」のボタンもある
たこ焼きの部門単体でも利益が出ている
とはいえ、原材料値上がりの波が押し寄せる昨今、とりわけ、たこの価格高騰は著しい。総務省「小売物価統計調査」によると、2024年11月のたこの価格(東京都区部)は100グラムあたり534円と、今ではまぐろの価格504円(同年同月)よりも30円も高い。
たこの価格は10年前よりも2倍近く値上がりしているのだ。
たこ高騰の影響を受け、たこ焼き専門店や祭り・イベントの屋台などでは値上げに踏み切るケースも相次ぐ。
直近では、チェーン店「築地銀だこ」が2024年12月4日に価格を改定し、定番商品の「たこ焼(ソース)8個入り」は、テイクアウトが税込669円(値上げ前626円)、店内飲食が同682円(値上げ前638円)に値上げされている。
祭りなどの屋台でも「たこ焼き700円時代」に突入し、「庶民の味のたこ焼きが高級品になってしまった」と嘆く声が全国各地で上がっている。
このような状況のなか、「ラ・ムー」「ディオ」の“100円たこ焼き”は儲けを出すことができているのだろうか。
「たこ焼きの部門単体だけでも利益は出ています。
確かに、たこの値段はじわじわと上がっていますが、仕入れ担当が一生懸命、様々な仕入れ先を探したり、冷凍のたこも上手に組み込んだりと調達にも工夫をしています。
また、たこ焼き販売は弊社の一部門ですので、パクパクのたこ焼き用だけでたこを仕入れるのではなく、スーパーの鮮魚部門やお惣菜部門などで販売・調理するたこも一緒にセットにして大量に仕入れる形をとっていますので、全体的にたこの仕入れ値を抑えることができるのです」
たこ焼きには紅生姜、天かすなども入り、ソースの上には鰹節がかかる。たこ以外の原材料の仕入れもスーパーの仕入れとセットにしているため、同様に仕入れコストが抑えられるという。
「マヨネーズは別売りで小袋を税込10円で販売しています。
昔はサービスで付けていましたが、原材料などの価格がかなり跳ね上がってきましたので、マヨネーズは別売りにし、たこ焼きの価格を保っています」
券売機にはマヨネーズ10円のボタンもあり、客が自分の好みに合わせて選択できるようになっている。
マヨネーズは別売り1袋10円(税込)
「100円にこだわり続けます」
たこ焼き1個1個に、たこが必ず1つずつ入るように手順もルール化されている。
「目視確認がしやすいように、たこを最初に銅板に入れるという順番が決まっています。
生地を入れてからたこを入れるのが本来の作り方ですが、そうするとタコが生地に沈んでしまい、たこが入っているのかわからなくなってしまう可能性があります。
入れたつもりになっていたり、2個入っていたりといったことを防ぐために、生地を流し込む前にたこを銅板に入れます」
たこ焼きへのこだわりの根底には、庶民の味を守りたいとの思いがある。
「ご家族で5パック、10パックを買って帰られるお客様や、『今日のお昼はたこ焼きにしよう』とたこ焼きを2パック買われるサラリーマンのお客様、学校帰りの生徒、学生のお客様もいらっしゃいます。お子様もお小遣いの中から100円玉1つでたこ焼きを楽しめます。
お客様からは温かい応援の声もいただいております。これからも100円にこだわり続けます」
物価高が続く中、“100円たこ焼き”の存在感はますます増していきそうだ。
取材・文/上田千春





