相続トラブルはごく普通の家庭でも起こり得るものだが、それは芸能人でも例外ではない。お金が絡むことで、もともと仲がいい家族だとしても骨肉の争いに発展するケースもある。
女優の水沢アキさん(69才)が、父と母がそれぞれ他界したときに、小さな頃から仲がよかった弟とトラブルになったことを明かしてくれた。
「きょうだいだからといって決して信じてはいけない」
水沢さんは2015年に父を亡くした際、思わぬ事態に遭遇した。
《昭子(水沢さんの本名)に数千万円を譲る》
父が自筆で書いた遺言書にはそう記されていたが、肝心の口座には8万円しか残っていなかったのだ。
「“えっ!?”と拍子抜けして4才年下の弟に何が起きたのか尋ねても、『わからない』の一点張り。
ところが弁護士が父の口座の入出金記録を調べると、弟がお金を引き出していたことがわかった。
おかげで取り戻すことができましたが、遺言書を見るのも相続も初めてのことで、弟に任せてしまっていたけれど、きょうだいだからといって決して信じてはいけないと現実を知りました」(水沢・以下同)
その後しばらくして母が認知症を発症し、施設に入所したのち2022年に他界した。
そのとき水沢さんは、母の遺言書を弟が用意していたことを知った。
「母が認知症で記憶にムラがあったとき、弟は公証人2人を揃えて口述筆記で母の遺言書を作成していました。
そこには、『すべて息子に相続したい』と記載があり、当時、査定額5億円以上の実家や預金、生命保険などほぼすべての財産が弟に渡った。
私は弁護士を通して主張した遺留分しかもらえませんでした。
確かに、隣で暮らしていたのは弟だったけれど、私と母は深いところでお互いを信頼していたのですが、認知症のせいですかね……。母との思い出は数えきれないほどあるのに、それがこんな遺言書になるなんて……」
仲がいいと思っていた弟からのひどい仕打ちにも、水沢さんが傷心の面持ちで語る。
「弟とは小さな頃から仲がよかったのでとにかく“信じられない”の一言です。
家族だから、仲がいいから、忙しいから、とほったらかしにするのは絶対にダメ。
お金のこともそうですが、何より精神的なショックが大きすぎます」
遺言書を作っても状況が変わったときに作り変えないと失敗する
かように遺言書の効力は絶大であり、心身が健康なうちに正しい方法で準備しておくことが、骨肉の争いを避けるいちばんの方法なのだ。
『ネットではわからない相続問題の片づけ方』の著者で弁護士の澤田有紀さんが語る。
「遺言書にまつわる失敗で多いのは、状況が変わったのに作り直さなかった結果、トラブルが生じること。
実例としては、長男に実家の不動産、長女に預貯金を与えると遺言書で定めた父親がいました。
ところがその後、銀行のすすめに従って父親は実家をアパートに建て替えたため、不動産の価値が大きく上がった半面、預貯金はほとんどなくなった。
それでも父親は遺言書を作り変えないまま施設に入って亡くなり、長女と長男の相続財産に大きな格差が生じました。
納得がいかない長女が申し立てても長男は『遺言に書いてある通り』と一歩も引かず、きょうだいの仲がこじれました」(澤田さん・以下同)
書き方によってはどんなに懸命に作ってもかえってもめごとを増やす結果になる場合もあるため、望まないもめごとや間違いを避けるには弁護士や司法書士に相談したり、公証役場で手続きする「公正証書遺言」を作成するなど、プロの手を借りるのがいい。
「ただし、銀行などが遺言書の保管から執行まで代行する『遺言信託』は避けるべきです。
銀行などには手数料で儲けようとする目的があるうえ、財産の内訳を知られるので、後から営業をかけられるケースもある。
本当に必要なのかはよく考えて契約した方がいいでしょう」
自分のため、残された大切な人のため──よかれと思って進めてきた「最期の準備」で立つ鳥跡を濁すことがないよう、ゆっくり、しかし着実な方法で「その日」に向けて歩き出そう。
※女性セブン2024年10月24・31日号