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「一般選抜では東京の難関大に手が届かない」地方の学生でも挑戦できる総合型選抜の最前線 早稲田大「地域探求・貢献入試」は入学者の約3分の2が地方学生

大学入試は学力試験以外にもさまざまな入試方式があり、多様化している(写真:イメージマート)

大学入試は学力試験以外にもさまざまな入試方式があり、多様化している(写真:イメージマート)

 大学が学力試験以外で選抜を行う総合型選抜を取り入れるようになり、入試の様相も変わってきている。入試対策などで首都圏と地方での格差が広がっている中で、首都圏の人気大学は総合型選抜で地方の優秀な学生をいかに取り込むかという課題に取り組んでいる。

 

『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする「推薦入試の現在地」。【全4回の第4回】

 

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「教育格差」の視点から地方の高校生が東京の難関大に進学することが困難になっている実情や、その打開策を追っている。

 

 東京の塾や予備校を取材しているとその進化には驚く。予備校もひとりひとりの生徒に目を配り、最新のAI学習アプリを導入するなどして、万全の体制で生徒たちを難関大に合格させていく。一方で、地方は少子化の進みも速く、塾機能が少ない地域も多い。

 

そんな条件で幼い頃から塾通いをしている首都圏の受験生たちに太刀打ちするには大きな困難がある。しかし、学力以外の要素も評価する推薦入試ならば地方の高校生も都会の高校生と互角に戦えるのではないかということを取材している。

 

 今回は、東京の最難関私大のひとつ、早稲田大学の入試担当者に話を聞いた。

 早稲田大学は近年、地方の高校生をターゲットにした入試を開始している。

 

「地域探究・貢献入試」という入試方式だ。法学部や文化構想学部、文学部、人間科学部スポーツ科学部、教育学部の一部で募集をしている。

 

「2018年から新思考入試というものを行ってきましたが、より目的を分かりやすくするために2024年度入試から名称を変えました」(早稲田大学入学センター長・小森宏美教授)

 

 募集要項には、「これまで取り組んできた地域での活動や経験、問題意識等を踏まえて、本学において主体的に学び、その成果を地域に還元する意欲を丁寧に評価します」とある。

 

 今、地方の高校生が地域性のあるテーマで探究学習をしている。地域の課題、たとえば、教育や文化、経済の問題などについてインタビューや調査をし、解決案を自分なりに見つけていくものなどだ。

 

 かつては放任主義といわれた早稲田も、今では昔と異なり、少人数制の授業などで学生をきめ細かく指導をしているが、この「地域探究・貢献入試」で入学した学生に向けた演習科目も用意をしている。「地域連携基礎演習」やその他関連科目を受講し、自らのテーマを深く掘り下げることができる。

 

「研究の手法には文献を読みこむものと、フィールドに出て調査をするものなどがあります。後者のフィールドでの調査に積極的に取りくめる知的好奇心の強い学生を、地域探究・貢献入試では求めています」(小森教授)

 

 これまでのところ、この地域探究・貢献入試での入学者の約3分の2は地方の学生が占めるものの、出願者の割合では、地方と首都圏が拮抗している状況だ。

 

 現在、地方の高校が探究学習で成果を出し、その勢いは目を見張るものがあるが、それを武器に早稲田を受験する高校生も増えてきているのかもしれない。

そうなってくると推薦入試では地方の高校生にもチャンスは拡がってくる。

 

「文武両道」を掲げる地方進学校の強み

 

一方で、そういった推薦入試でも地方からもまんべんなく受験生が集まる入試もある。

 その一つ、立教大学は首都圏の受験生に人気がある大学だ。

 

立教大学も、一般選抜とは違う資質や能力を持つ学生へ門戸開くために、自由選抜入試、国際コース選抜入試、アスリート選抜入試などの総合型選抜入試を行っている。

 

 その中で、学部学科ごとに出願資格を定め、志願理由書等の出願書類、小論文、面接で合否を決める自由選抜入試はやはり首都圏の学生の割合が高い。

 しかしだ。

 

「アスリート選抜入試は地方の受験生も多く受験してきます。他の入試と比べると合格者のうち、地方の受験生の割合は高いです」(立教大学入学センター課長・原正福氏)

 

 アスリート選抜入試は名前のとおり、スポーツで活動実績のある高校生に向けた入試だ。出願資格は地域ブロックの大会で4位までに入賞した者、団体競技で4位までの場合は正選手として出場した者などのスポーツで活躍した実績を見るが、それと同時に基礎学力も評価する。

 

 評定平均が3.5以上、英語資格・検定試験のスコアの提出も出願資格として求められ、二次試験では小論文も課せられ、論理的な構成力や知的な素養も評価の対象となる。

つまり、「スポーツだけをやってきて全く勉強をしていない」タイプの高校生には向いていない入試だ。

 

そのアスリート選抜入試において、地方の高校生の受験比率が高いということは、それだけ地方にはスポーツを頑張りながら、勉強もしてきた高校生が多いからだろう。

 

 

 静岡県の公立高校の進路指導教師はいう。

「静岡の公立高校は文武両道の方針もあって、スポーツで実績を出す所も多いです。その実績を利用して東京の私大に進学する生徒は昔から存在しました」

 

 この文武両道の方針はほかの地方でもそうだろう。地方では進学校の高校生も部活を頑張って、その実績で受験に挑む伝統がある。

 

 今後、探究学習が地方で普及すれば、それを武器に総合型選抜で首都圏の受験生と互角に競える可能性がある。実際、取材をしていても地方の高校生が探究学習で成果を出してきている。

 

 総合型選抜は指定校推薦と違って、いくつも大学や学部を受験できるのも魅力だ。立教の自己推薦入試は併願が可能で、他の大学を受験することもできる。

 少子化の中、大学は様々な工夫や努力をしていて、入試の多様化もそのひとつだ。「一般選抜では東京の難関大には手が届かない」と思う高校生も是非、推薦入試を検討してもらいたい。

 

(了)

 

 

【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。【Xアカウント】@sugiyu170