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「駐車場のラインに直線と楕円がある」のはなぜか 組み合わせで“無駄な仕事を減らす”思考法

 

駐車場のラインの工夫を知っていたら、別の分野でも応用できる(写真:イメージマート)

駐車場のラインの工夫を知っていたら、別の分野でも応用できる(写真:イメージマート)

 

仕事がたまって終わらない──。日常的にそんな悩みを抱えているビジネスパーソンは少なくないだろう。解決するために何かよい打ち手はないのか。外資系企業の営業職で、同僚が1日10時間をかけて仕上げる以上の成果を、1日わずか1時間働くだけで上げられる思考法をまとめた著書『仕事を減らす』が話題の田中猪夫氏がアドバイスする。

 

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 私たちを煩わせ人生における大切な時間を大量消費する、無駄な仕事。そこに費やす時間を減らしてくれる小さなイノベーションは、どんなときに生まれるのだろうか。いとも簡単に思いつくこともあれば、毎日考え続けて、ある日突然生まれることもある。これは、なぜだろう。

 

 まず小さなイノベーションを生まれやすくする方法を考えよう。小さなイノベーションは、多種多様な知識の蓄積があるほうが生まれやすい。

 

なぜなら知識が頭の中にあれば、それらを、これまでとは違うかたちで「組み合わせ」る(点と点をつなげる)ことができるからだ。

 

 たとえば、アポロ11号のクルーに不便を強いて筋力低下を防ぐことに成功したモアハウスという人物は、スポーツ医学の専門家なので当然、筋肉の知識は豊富にある。しかし宇宙船内の設計は専門ではない。

 

「狭い宇宙船のなかの設計」という知識を獲得することが、筋肉の知識と宇宙船内の配置という知識の「組み合わせ」につながり、宇宙飛行士の日常を不便にするという発想が生まれた。

 

 オーストリアの経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターは、それまで試していない組み合わせを「新結合」(New Combination)と呼んだ。またフランスの数学者、物理学者であるアンリ・ポアンカレは「創造的、独創的なものは、2つの知性の結合によって生まれるものだ」とした。

 

イノベーションのジレンマ』の著者クレイトン・クリステンセンは「イノベーションは一見、関係のなさそうな事柄を結びつける思考」と位置づけ、知的発想法のロングセラー『アイデアのつくり方』の著者ジェームス・W・ヤングは「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」とした。

 

 偉大な先人たちが示したように、既存の知識を「組み合わせ」ることで小さなイノベーションは生まれる。モアハウスに筋肉の知識しかなかったら、あの考えは生まれなかっただろう。

 

彼が専門とする「筋肉の知識」と、NASAで働いたことで新たに得た「宇宙船内の設計という知識」が組み合わさったのである。

 

 次に、駐車場のラインを示した図をご覧いただきたい。

 

 

2つの駐車場のライン

2つの駐車場のライン

 左のように直線だけのものと右のように楕円にした線がある。この2つを比較すると、右のほうが隣の車と左右等間隔で駐車しやすくなり、接触トラブルを防げる確率が格段に上がる。ドライバーは楕円ラインのほうが左右等間隔に駐車しやすいから、このような種類の線があるのだ。

 

 これと似た例がある。玄関から部屋に上がるときに、靴を脱ぎ散らかす子どもに手を焼いた母親が、あるときチョークで玄関の床に、子どもの靴にぴったりの足型を描いた。すると子どもは自然と靴を、そこに揃えるようになった。

 

 チョークで描いた楕円の足型に靴を置く。駐車場の楕円ラインに入れないように駐車する。つまり、この2つには「楕円を基準にする」という共通項がある。

 

 もし、チョークで足型を描くという小さなイノベーションを知っていたら、駐車場の設計に「組み合わせ」て、駐車場に楕円のラインを引くという小さなイノベーションを生み出せる可能性は上がる。

 

 一方で、駐車場に楕円ラインを引いたほうが左右等間隔に駐車されやすいという駐車場の設計知識があれば、靴を脱ぎ散らかす子どもの心理と「組み合わせ」ることで、チョークで足型を描くという小さなイノベーションにつながる可能性が高まる。

 

 子どもの心理と駐車場の設計。このように、まったく違う知識を「組み合わせ」る(点と点をつなげる)ことで、小さなイノベーションは生まれた。

分野を横断する知識の身につけ方

 分野を横断した幅広い知識があれば、異なる分野の知識を簡単に「組み合わせ」られる。では、そのような知識を、どう獲得すればいいのだろうか。

 

 本を読む習慣のある人は、これまで読んでこなかった分野の本を読んでみよう。読書が苦手ならオーディオブックを活用するのもいい。

 

友人、同僚、専門家と交流し知識を得ることも可能だ。同じ会社の人や仕事仲間でないほうが知識の幅は広がる。

 

SNSの交流グループなどに参加するのもいい。録画した教育番組やドキュメンタリー番組などを、時間のあるときに観るのもいい方法だ。

 

 気になることがあったら検索して周辺知識を得る習慣をつけると、知識は深まる。ニュースの通知を受け取るようにするなどインターネットを活用するのもいい。

 

 ぜひ気に留めておいてほしいのは、自分の専門外の知識、社内ではなく社外の知識に対して貪欲さがあったほうが「組み合わせ」には有益ということだ。

 

 シュンペーターポアンカレ、クリステンセン、ヤングらが示したように、既存の知識の「組み合わせ」から創造性は生まれる。

 

 これはテクノロジーの分野でも同じだ。スマートフォンはパソコンと電話を「組み合わせ」てコンパクトにしたもの、あるいは電話とカメラを「組み合わせ」たものとも言える。

 

 ここに至るには、従来のパソコンの機能や内部構造の知識、また電話やカメラの内部構造の知識を、ある程度もっている必要がある。それらがないと「組み合わせ」た新しいもののかたちや実現可能性をイメージするのが困難だからだ。

 

 

ガソリン車と電気モーターを組み合わせたハイブリッドカークラウドコンピューティング人工知能を組み合わせた自動運転も、それぞれの知識を「組み合わせ」たことで初めて、新しいものになったと言えるだろう。

 

 身近な例で言えば、ハンバーグのつくり方とバンズの特徴などの知識がまったくなければ、ハンバーグとバンズを組み合わせたもの(ハンバーガー)が美味しくできないのと同じだ。

 

 それゆえ知識として、既存の概念をもっている必要がある。一方で知識が豊富だとしてもイノベーションが生まれるとはかぎらない。なぜなら、その知識を「組み合わせ」る必要があるからだ。

田中猪夫氏

田中猪夫氏

【プロフィール】
田中猪夫(たなか・いのお)/Creative Organized Technology LLC General Manager。1959年、岐阜県生まれ。故・糸川英夫博士の主催する「組織工学研究会」が閉鎖されるまでの10年間を支えた事務局員。20代に、当時トップシェアのパソコンデータベースによるIT企業を起業。30代には、イノベーションの宝庫であるイスラエルのテクノロジーの日本へのマーケット・エントリーに尽力。40代には、当時世界トップクラスのデジタルマーケティングツールベンダーのカントリーマネージャーを10年続ける。50代にはグローバルビジネスにおけるリスクマネジメント業界に転身。