「米国第一主義」を掲げるトランプ2.0(第2次トランプ政権)が1月20日に始動する。関税引き上げによる混乱など、新聞・テレビは悲観論ばかり報じているが、本当にそうだろうか。独自の相場観で巨額資産を築いた億り人たちは、全く違った見方をしている。【前後編の前編】
トランプ政権幹部に親日派
「辞書のなかで最も美しい言葉は“関税”だ」
そう言って憚らないトランプ氏の大統領返り咲きで懸念されているのが、関税引き上げによる経済の冷え込みだ。
「トランプ2.0」のスタートが近づくにつれ、不安の声は高まり、日経平均株価も1月7日に4万円台をつけた後は伸び悩む展開が続いている。
しかし、先を見通して実利を得ようとする企業や株式投資などの最前線の知見に基づくと、また違った景色が見えてくる。
昨年12月にはソフトバンクグループの孫正義社長がトランプ氏と会談し、今後4年間で1000億ドルの投資と10万人の雇用創出を表明。トヨタ自動車は1月20日に行なわれる大統領就任式に100万ドルを寄付する方針を示すなど、日本の大手企業はトランプ政権と良好な関係を築こうといち早く動いているのだ。
カブ知恵代表の藤井英敏氏が分析する。
「トランプ氏にとって関税はあくまでディール(取引)の手段です。米国ファーストの観点で望むものが手に入るなら、代わりに関税の引き上げを実施しない可能性もあります。
国によって対応は変えるはずですし、日本企業がトランプ氏に対して有益な提案をすれば、日本にはある程度融和的な対応をしてくる可能性も考えられます」
トランプ政権の顔ぶれを見ても、日本経済にとって実は好材料が並んでいるという。
グローバルリンクアドバイザーズ代表の戸松信博氏はこう言う。
「国務長官のマルコ・ルビオ氏や政府効率化省トップのイーロン・マスク氏は親日派で知られ、駐日大使には実業家のジョージ・グラス氏が就任します。そのことを踏まえると、日米の経済的な連携は基本的には高まっていくでしょう」
一方でトランプ氏は、デンマーク領グリーンランドの領有への意欲を燃やすなど欧州各国に厳しい目を向ける。加えて中国に対しては60%の関税をかける方針を示すなど強硬姿勢を崩さない。
前出の藤井氏は、「こうした対中強硬政策は日本経済にとって追い風となる可能性が高い」と見る。
「脱中国依存の流れが強まるなか、ベトナムや台湾を中心に中国からの生産移転が進んでいます。
最近で言えば、熊本県に半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)の工場が建設されて活況に沸いていますが、中国から日本に生産拠点をシフトする動きに対しては、税金や補助金も投入されるし、新たな産業が勃興して雇用も生まれる。
日本経済にとってポジティブな面が多い」
ディールに長けたトランプ氏が中国をはじめ世界各国に厳しい対応を迫るなか、日本が“漁夫の利”を得られる可能性があるという指摘だ。
米国のインフレもプラスに
関税引き上げが実施されることによって米国内のインフレが拡大し、景気後退のリスクも指摘されているが、マーケットバンク代表の岡山憲史氏はこう言う。
「関税強化によって基本的に米国内での物価上昇は進むと思われますが、第1次トランプ政権でもそうだったように、結果として米国経済は拡大を続けてきました。
それは減税や規制緩和によるところが大きく、今回もそうして米国経済の好調が維持されれば、日本経済にとっても当然、プラスの影響が大きいと考えられます。
また、米国内のインフレ傾向が高まることから、当面はドル高・円安基調が続くと見込まれます。輸出企業が多い日本の企業業績は押し上げられ、株式市場に上昇気流がもたらされるのは間違いないでしょう」
では、日本株はどこまで上昇が期待できるのか。株式投資で億超えの資産を築いた「億り人」たちに聞くと、揃って強気の見方をした。
資産20億円超の88歳現役トレーダー「シゲルさん」こと藤本茂氏はこう語る。
「トランプ氏が掲げる60%関税といった対中強硬策が実行されれば、中国企業にとって強い逆風になる分、日本の輸出企業はそれだけ追い風を受けることになる。年内に日経平均が5万円を超えてもおかしくないと考えています」
元手200万円から約4年で億り人になった投資家のDAIBOUCHOU氏もこう予測する。
「昨年7月に日経平均が史上最高値を更新したとはいえ、日本株は米国株に比べてまだまだ割安と言える。
トランプ氏の減税政策によって米国民の可処分所得が増えれば、余剰資金が割安な日本株への投資に回る可能性もあります。
米国にとって日本が地理的にも軍事的にも重要な拠点であることも見逃してはいけません。
日経平均がこの2年ほどハイペースで上昇していることを考えると、5万円台はもちろん、トランプ大統領任期中の4年間で6万円に達する可能性も十分にあるでしょう」
史上最高値が大幅に更新される未来を見通しているのだ。
別記事では、藤本茂氏やDAIBOUCHOU氏らの億り人投資家が、トランプ2.0が追い風となる注目銘柄の数々を紹介しているので、参考にしてほしい。
※週刊ポスト2025年1月31日号