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「悠々自適な老後のつもりが…」高齢者の買い物環境が悪化の一途、食料を求めての“サバイバル戦”を余儀なくされる

「買い物難民」は今後も増加する可能性が(イメージ)

買い物難民」は今後も増加する可能性が(イメージ)

 大きな社会問題となりつつある「買い物難民」の増加──。“難民”の人数が最も多いのは神奈川県の60万8000人で、次いで大阪府53万5000人、東京都53万1000人、愛知県50万人など三大都市圏に位置する都府県が上位に並ぶ。

 

この状況に追い打ちをかけるように、スーパーや食料品店の撤退・閉店が相次いでいる。今後どんな事態が予想されるのか?

 

人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。

 

 * * *
買い物難民」が増加したのには、いくつかの要因がある。まずは高齢者が増加していること。そして、高齢者の住居形態が挙げられる。

高齢者の76.2%が一戸建ての持ち家に住んでおり、近所に商店がないというところが少なくない。

 

 さらなる押し上げ要因は「店舗側の変化」にもある。

 各地で郊外に立地する大型商業施設が増加し、昔ながらの商店街は衰退してきた。このため住宅街近くにあった食品スーパーの撤退が東京圏も含めて目立つようになった。

 

また、商店主の高齢化に伴い、住宅街近くにあった個人店が廃業するケースも相次いでいる。

 

 コンビニとスーパーの中間規模の新形態の店舗を住宅街周辺に出店する動きも出てきてはいるが、全国で見ればまだ十分な数ではない。

こうした形態の店舗も、ある程度の需要が見込める住宅密集地にしか出店しないものとみられる。

 

 最近の公共交通機関の縮小も、買い物難民を生み出す要因として加わってきている。

 農林水産政策研究所の分析(※)は徒歩を前提としているが、東京圏でも路線バスの廃止や運行間隔の広がりが進んでおり、これまで公共交通機関を利用して何とか買い物をしてきた人たちにも困難さが増している。

 

タクシーを利用して買い物をするという人もいるが、運転手不足で思うタイミングで出掛けることが難しい状況も出てきている。

 

【※農林水産省農林水産政策研究所による「食料品アクセス問題」の調査結果。店舗まで500メートル以上かつ自動車利用困難な65歳以上の高齢者を「食料品アクセス困難人口」と定義し、2020年国勢調査などのデータを基に分析した結果、該当者は904万3000人にのぼった】

 

 このように、70代後半や80代の人にとって買い物をめぐる「環境」がどんどん悪化してきている。

悠々自適な老後のつもりが、食料を求めての“サバイバル戦”を余儀なくされる。そうした人々が増えるのも人口減少社会のリアルだ。

 

 

食料品アクセス困難人口の6割は75歳以上

食料品アクセス困難人口の6割は75歳以上

 

年齢に関係なく「買い物弱者」が増えていく

買い物難民とは、高齢化で移動困難な人が増えるという「消費者側の変化」と、国内マーケットが縮小し小売店舗の経営が困難になるという「売り手側の変化」という2つの構造的課題が重なって起きているということであるが、これを単に高齢者の問題として片づけてはならない。

 

 人口減少が背景にある以上、いずれ若い世代にとっても深刻な状況が広がる。国内マーケットは縮小を続けており、各地で小売業の淘汰が始まっている。

 

 すでに自宅からかなり離れた隣接市町村の大型ショッピングセンターに買い物に出掛けている人は少なくないが、今後は、ちょっとした品物が不足しただけで遠方まで買いに行かなければならなくなる可能性が大きくなることだろう。

年齢に関係なく、自宅近くに買う場所がないという「買い物弱者」が増えそうだ。

 

 買い物難民の増加を受けて、多くの地方自治体では対策を講じている。食料品の移動販売への補助や、スーパーマーケットやホームセンターなどを回る無料の送迎バスを走らせる事業を行っているところもあるが、人手不足で運転手の確保は難しい。

利用者が少なくて採算が取れずに事業が打ち切られることも少なくない。

 

 すべての食材をコストが高いネット通販で購入するのも家計指数が大きくなりすぎて現実的ではない。

 

そもそも、これらの取り組みは、内需の縮小で店舗経営が難しくなるという根源的な課題を解決し得るものではなく、限界がある。

 

政府は、世界人口の爆発的な増加に伴う食料不足に備えて食料安全保障の強化を急いでいるが、食料を安定確保したとしても国民の手元にスムーズに届かないのでは意味がない。

人口減少社会における食料安全保障は、もっと広義にとらえて対策を考える必要がある。

 

 

 

【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授大正大学客員教授産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。

 

ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。