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孤独の大家が語る「人が80代になって後悔する事」 多くの人は「何が普通なのか」を気にしている

街角で佇む高齢者

研究によると、多くの女性が晩年に「後悔すること」があるのだという。写真と本文は直接関係ありません(撮影:今井康一)

 

孤独や社会的孤立が多くの国で深刻化している。個人の幸せのみならず、その経済的、社会的大きさの影響からイギリスには孤独担当相が設置され、日本でも4月から孤独・孤立対策推進法が施行された。

本来人々をつなげるはずのSNSが普及しているにもかかわらず、私たちはなぜ、こんなに孤独になってしまったのか。

 

『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』の著者の1人で、ハーバード成人発達研究所の責任者であるロバート・ウォールディンガー教授によると、実は孤独問題は1950年代から悪化する一方だという。

「何が普通なのか」がみんな気になる

――ハーバード大学が幸福に関する研究を85年も続けているのは驚きです。

この研究がまだ続いているのは、ある意味偶然なんです。

この種の長期にわたって人々を追跡する研究のほとんどは、10年を経過する前にやめてしまいます。脱落する被験者が多いからです。

 

私たちの研究は、85年もの間、十分な人数を維持し続けたという点で、まったく異例なものです。しかも、当初の対象者のうち22%しか脱落していません。

 

ハーバード大学が興味を示しているのは、もともとの被験者の約3分の1がハーバード大学の学生だったからであり、この種の研究の中で最長のものだからです。

科学的にも非常に珍しい研究なんです。

 

「グッド・ライフ」が世界で読まれている理由について、筆者のウォールディンガー氏は1つの見解を示した(撮影:ヒダキトモコ)

 

――この本は世界中で読まれているそうですが、各国でここまで孤独について関心が高いのはなぜでしょうか。

 

自分や人の人生でどんなことが起きているのか、それを知りたい人が多いのではないでしょうか。

 

他の人はどんな人生を送っているのか、自分は人に比べていい人生を送っているのかを知りたいのです。私たちは最初の被験者724人だけでなく、その家族も含めて1000人以上の人々を長年にわたって調査し、さまざまな生き方を見てきました。多くの人はそれに興味があるのだと思います。

 

よく受ける質問に、「何が普通なのか。どんなふうに生きるのか普通なのか」「こういう生き方をしたら不幸になるのか」というのがあります。

 

 

――自分と他人の人生を比べることで、自分は人より「普通だ」「幸せだ」と感じたいと。

ただ、他人と自分を比較する回数が多ければ多いほど、幸福度が下がるという研究結果もあります。

だから、毎日、他人がどうであるかを気にする時間を減らしている人ほど幸せなんです。

 

――しかし、SNSによって他人のことを気にかける人が増えています。

SNSは、私たちを互いに比較させるだけのものです。そしてもちろん、私たちが比較しているのは非現実的なイメージです。

 

これは今に始まったことではありません。テレビや雑誌を見れば、こんな生活であるべきというイメージが出てきますが、誰もそんな生活はしていません。

 

そして、インターネットやSNSはさらにこうしたイメージを助長しています。

これは特に若者に大きな影響を与えています。SNSで見る理想的な生活を見て、それが現実ではないと捉えられないのです。

孤独問題は1950年代から悪化する一方

「グッド・ライフ」の著者

ウォールディンガー氏はアメリカの孤立化についても詳細に語った(撮影:ヒダキトモコ)

――孤独や社会的孤立の問題は、ハーバード大学が調査を始めた当初より悪化していると思いますか?

 

実のところ、何十年もの間、悪化の一途をたどっています。

アメリカでは1950年代から記録が始まっています。

 

政治学者のロバート・パットナムは『ボウリング・アローン』という本を書きましたが、この本では1950年代からアメリカ社会において人々が他人への投資を減らしている、すなわち、人と過ごす時間が減っている様子を描いています。

 

これはアメリカの各家庭にテレビが設けられたことと関係していると考えています。

人々は外出しなくなり、頻繁に人を家に招くこともしなくなりました。礼拝にも行かなくなり、クラブやその他の地域団体にも参加しなくなった。こうした状況は1950年代以降、どんどん悪化しています。

 

こうした傾向をさらに加速させたものの1つが、デジタル革命であり、SNSだと私たちは考えています。

――孤独や社会的孤立の深刻さと経済発展との間に関連性はあると思いますか?

どうでしょう。あなたは、どう思う?

 

 

――技術的な発展と経済的な発展はほぼ連動しているので、そう考えるのが自然だと思います。

 

経済発展をしているということは、格差も大きくなっているということです。日本はどうかはわかりませんが、アメリカではそうです。格差がどんどん広がる中で、人々は食料や家賃を賄うために苦慮するようになっています。

 

多くの人が仕事を2つも3つも仕事を掛け持ちしているので、家族と一緒に夕食を取ったり、週末にくつろいだり、人と会ったりする時間が減っています。経済的な不公平は社会的孤立を悪化させると思います。

被験者たちが80代になって最も後悔していたのは

――では、孤独や社会的孤立は、発展途上国よりも先進国の方が深刻な問題だと言えますか?

 

例えば、インドを発展途上国と呼ぶか先進国と呼ぶかはわかりませんが……多くの人々が村から都会へと移り住んでいます。中国でも同じことが起きています。若者が就職のチャンスを求めて大都市に移り住むと、家族を残して出て行くことになります。

 

結果、例えば祖父母は孫の面倒を見ることができなくなったり、子どもができた時に必要な子育ての援助を親や祖父母から受けられなくなります。

 

また、村や小さな町から大都市に引っ越した場合、旧交を温めることは容易ではありません。これは、先進国は当たり前のことですが、社会的構造が急速に変化している発展途上国でも起こっていると私たちは考えています。

「グッド・ライフ」の著者

ウォールディンガー氏は家族と「十分な時間」を過ごしてきたのか(撮影:ヒダキトモコ)

 

――人は希望をかなえるために、そしてより豊かになるために懸命に働くのに、気がついたら以前より孤独になっていると……。

 

その通りです。

被験者たちが80代になった時に、自分の人生を振り返って一番後悔していることは何かと尋ねたところ、一番多かった後悔は、仕事に時間を費やしすぎて、大切な人たちと過ごす時間が足りなかったということでした。

 

――ご自身は、家族と十分な時間を過ごしてきたと思いますか?

どれだけ過ごしても「十分」ではないですね。ただ、この研究をしていたいこともありますし、私の父はいつも働いていて、大人になるまで父のことをよく知らなかったので、自分自身は父親の役割を果たしたいと、時間を計画的に使うようにしました。

 

今となっては、それができて幸運だったし、それができる仕事を選ぶこともできました。

ただ一方で、私のキャリアは多くの同僚よりも遅れていました。

仕事を減らして家族との時間を増やすことを選んだからです。

 

 

――それで満足ですか?

とても幸せです。だって今となっては、私がどれだけ多くの科学論文を発表したかなんて、どうでもいいじゃないですか。

 

アメリカには今、とても参考になる格言があります。

それは、「20年後、あなたが会社で遅くまで働いたかどうかを覚えているのは、あなたの子どもたちだけだ」というものです。

 

――この研究をしたことで、先生の人生に影響を与えたことは他にありますか?

人生には実にさまざまな生き方があることを知りました。私がどれだけ賞を取ろうが、どれだけお金を稼ごうが、誰も気にしない、ということです。

 

もちろん仕事は重要ですし、私は自分の仕事をとても大切にしています。

でもそれは例えば、仕事で何か賞を得よう、と努力しようということとは違います。賞を取ったってそんなこと誰も気にしないのですから。

多くの女性が晩年後悔すること

――著書の中ではいかに若い世代が有名になることを重視しているかが出てきますね。

今の名声とはすなわち、ソーシャルメディアにおけるインフルエンサーです。

それが自分の人生を左右すると考えているのです。

ただし、SNSの問題はほとんどが「作り上げられたもの」だということです。

 

10代や20代ならそう思っても仕方ないかもしれません。

ただ、80代の被験者に話を聞くと、多くの人、特に女性が「他人の目を気にすることに時間を費やさなければよかった」と話します。

他人が自分のことをどう思うか、他人が何かについてどう思うかを気にしなければよかった、彼らの人生ではなく、自分の人生を自由に生きればよかった、と。

 

若い人たちにはこのことを知ってもらいたいと思います。

他人があなたのことをどう思うのかなんて結局のところどうでもいいということです。

 

 

倉沢 美左 東洋経済 記者