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【福 島第1原発事故 5年目の真実(5)

むさしさん
プロフィール 様からお借りしてきました
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~「本当に子供を守れているのか」被曝を恐れ逃避~

「(政府は)原発の火災や爆発の恐れについて、十分なリスクシナリオを公開していたとはいえない。潜在的な信頼欠如は否定できなかった」

健康食品などのネット販売を手がけるケンコーコムの社長だった後藤玄利氏は、東京電力福島第1原発事故から約2週間後の3月下旬、東京の本社を福岡市に移転することを決めた。5月に社員の約3分の1と本社機能の一部を移転し、平成26年には本社を完全移転した。
関西などへ避難した外資系企業の多くは23年4月以降、首都圏に本社機能を戻した。計画停電による電力不足や交通の乱れが改善したことに加え、“放射能汚染”の不安が解消されたためだ。
ただ、目に見えない放射線への不安は、その後の企業活動に制約となった。森永乳業や流通大手のイオンは自社製品や自主企画商品を独自に検査。自動車メー カーも自主的に車両の放射線量を測定した。大手自動車メーカー首脳は「海外では『日本製はすべて放射能で汚染されている』という前提だった。コストはか かったが、データを取り、信頼を回復するしかなかった」と話す。
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被曝(ひばく)への不安から、母親が子供を連れて遠隔地へ逃避するケースもあった。沖縄県や北海道、東南アジアやアフリカに移住した人もいる。調査した筑波大の徳田克己教授は「(放射線量が低い)関東などに住む母子が大半だったことに驚いた」と明かす。
夫や親の猛反対を押し切り、できるだけ遠くへ逃げる過剰な行動。相談に乗ろうとしても、家族に居場所が伝わり、連れ戻されることを恐れてか、なかなか口を開かなかったという。離婚した例もある。
母親を動かしたのは子供を守るという強い信念だった。だが逃げ惑い、身寄りのない土地で暮らすことで精神的、経済的に不安定に。子供は地域になじめず、不登校に陥った。
今では消息を確認できなくなった母子も多い。「どうしているか心配だ。彼らも原発事故の被害者で支援が必要。一方で『本当に子供を守れているのか、もっと考えて』と伝えたい」と徳田氏は話す。
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放射線は、それほど危険なレベルだったのか。
原発事故では、飛散した放射性ヨウ素甲状腺に取り込むことで発症する子供のがんが懸念される。このため福島県は18歳以下の38万人を対象に検診を実施。167人を甲状腺がん(疑いを含む)と診断したが、「事故の影響は考えにくい」との見解を示した。
県検討委座長の星北斗・福島県医師会副会長は「地理的分布と放射性物質の汚染に有意な相関が認められないことが根拠の一つ」と話す。がんは原発周辺の市町村で特に多いわけではなかったのだ。
■飛散セシウム、表層土に固定
■農水産物、世界一厳しい基準をクリア
ヨウ素を豊富に含む昆布やワカメなどをよく食べる日本人の食生活も幸いしたという。普段から甲状腺ヨウ素で満たされ、事故由来の放射性ヨウ素が入り込みにくい側面があった。
一般に子供の甲状腺がんは100万人当たり1~3人とされ、福島の発生率は大幅に高いように見える。しかし、国立がん研究センターの津金昌一郎・社会と健康研究センター長は「放射線の影響よりも過剰診断による多発の可能性が高い」とみる。
甲状腺がんは進行が遅く、治療が不要なケースも多い。厳密すぎる検査をした結果、治療が不要なものや、通常は見つからない小さながんまで症例として報告されたためという。
社会に過剰な不安が広がった背景には、甲状腺がんが急増した旧ソ連チェルノブイリ原発事故の影響もある。当時は事故から25年という節目の年で、被曝(ひばく)者の来日や出版物の刊行などで関心が高まっていた。
放射線防護に詳しい札幌医科大の高田純教授は震災直後、福島第1原発に近い浪江町民40人の甲状腺被曝量を調査。結果は平均5・1ミリシーベルトで、チェルノブイリ周辺のゴメリ州のわずか千分の1だった。
ゴメリ州では10万人当たり13人の甲状腺がんが発生。福島県民200万人が仮に浪江町と同じ被曝量だったとしても患者は1人に満たない計算になる。高田氏は「福島で事故の影響による甲状腺がんは発生するはずがない」と断言する。
福島県放射線量は確実に減っている。原発から半径80キロ圏の線量を航空機で測定した結果、昨年9月は平成23年11月と比べ65%減少していた。特に原発の北西に広がっていた毎時19マイクロシーベルト超の地域は大幅に減った。
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野菜と果物からは25年度以降、1キロ当たり100ベクレルの基準値を超える放射性セシウムは検出されていない。東京大の田野井慶太朗准教授は「当初は飛散したセシウムが葉や茎から吸収されたが、その後は吸収が止まったため」と理由を説明する。
福島の土壌はセシウムをがっちり吸着する性質の雲母質の粘土が多く、飛散したセシウムは約3カ月後には表層土壌に固定されて動かなくなった。大量に使われるカリウムの肥料も、セシウム吸収を阻む一因だ。
福島県で生産されるコメは年間約1千万袋。全袋を検査してきたが、基準値超は着実に減っており、27年産はゼロだった。年間50億円を超える検査費用がか かっているが、福島大の小山良太教授は「科学的なデータの蓄積は風評被害への反証になる。検査の継続は大きな意義がある」と指摘する。
一方、汚染が深刻なのは森林だ。セシウムを浴びた葉が腐葉土となって地面に積もり、天然のキノコや山菜のほか、土の中の虫を食べるイノシシなどの野生動物 も高線量が続く。土壌からしみ出た水は、河川に流れ込むため、イワナなどの淡水魚も線量が高い。国に森林の除染計画はなく、解決の見通しは立っていない。
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海はどうか。福島県沖の海水からは、既に大半の場所で高濃度のセシウムは検出されていない。原発からの汚染水流出も、ほぼ止まったとされる。東京海洋大の石丸隆特任教授は「福島沖はもうきれいだ」とみる。
県の調査で国の出荷基準値を超える魚は昨年4月以降、なくなった。過去に基準値を超えたアイナメやヒラメなど30種近くは出荷制限が続くが、安全を確認できた魚は順次、試験操業を開始しており、70種以上の出荷にこぎつけた。
日本の食品基準値は米国や欧州の10分の1以下で、世界一厳しい。出荷されている福島の農水産物は、全てこれをクリアしている。東京大の二瓶直登准教授は「福島県産の表示は、まさに安全であることの証明だ」と指摘している。

この連載は青木伸行、中村将、伊藤壽一郎、加納宏幸、平尾孝、小雲規生、草下健夫、天野健作、高久清史、中村昌史、五十嵐一、三宅令、緒方優子、野田佑介、千田恒弥が担当しました。