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腎臓はなぜ加齢とともに壊れるのか?腎臓の持つ5つのはたらきと、移植を待つ患者1万4千人以上という腎移植の現状

髙取 優二(医学博士、腎臓専門医) によるストーリー

 

 

日本の慢性腎臓病患者数が2000万人以上だと推定されています。これは、成人の5人に1人という数字です! 加齢とともに減少し、再生することのない腎臓。365日24時間休むことなく、内分泌系ネットワークや神経ネットワークを通し、脳や心臓、腸など体の各器官のはたらきを裏で支えています。再生医療でもっとも実現が難しいといわれる臓器を、どうすれば健康に維持することができるのか? 発売とともに大きな話題となっている腎臓専門医・髙取優二さんの『腎臓の教科書』から、人生100年時代を腎臓と付き合っていくための正しい医療情報を紹介します。

 

 

腎臓はなぜ加齢とともに壊れるのか?腎臓の持つ5つのはたらきと、移植を待つ患者1万4千人以上という腎移植の現状



腎臓はなぜ加齢とともに壊れるのか?腎臓の持つ5つのはたらきと、移植を待つ患者1万4千人以上という腎移植の現状
© 現代ビジネス


*本記事は、『腎臓の教科書 体液の循環・浄化から見る驚異の生命維持システム』髙取優二・著から一部抜粋し、再編集したものです。

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意外と知られていない「腎臓」の機能
「腎臓は、責任感が強い。その性格は、内部の構造が複雑かつ精緻であることに対応する」

日本の解剖学者である坂井建雄博士は、腎臓についてこのように述べています。

私自身、この責任感という言葉は、全身の臓器の中での腎臓の役割を的確に表現していると感じます。脳や心臓といったほかの臓器が本来の機能を果たせるように、腎臓はまさに身を削りながら休まずにはたらき続けているからです。



また、腎臓はその機能が低下してきたとしても、痛みなどの症状は出ません。そのために、私たちが知らないうちにダメージが蓄積して、慢性腎臓病(CKD)へと進行するリスクが高いのです。その悪影響は心臓や血管、そして脳にも及び、心筋 塞や脳卒中感染症などでの死亡率が跳ね上がります。そのため、慢性腎臓病は「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれることもあります。

老廃物の排泄のほかにも腎臓には大切なはたらきがあり、おもな機能として、

・体内の水分量と濃度を調節する・血圧を調整する

・血液を弱アルカリ性に保つ

・赤血球の数をコントロールする

ビタミンDを活性化させる


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などが挙げられます。以降では、それぞれについて見ていきましょう。

老廃物を尿として排泄する
体の老廃物の排泄というと、真っ先に便を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、便に含まれているのは食べ物の残りカスや古くなって腸から脱落した細胞、腸内細菌の死骸など、ほとんどが腸の老廃物です。

一方、尿については、血液に乗って運ばれてくる全身の細胞の老廃物を排泄しているのです。便秘が数日続いても不快な程度ですが、尿が出ないことは生命の危機につながる深刻な事態を招きます。

尿で排泄している老廃物には、次のものがあります。

尿素たんぱく質が分解された後にできるアンモニアが、肝臓で尿素に変換されるクレアチニン:骨格筋にとってのエネルギー貯蔵物質であるクレアチンリン酸が分解された後にできる

尿酸:遺伝子の構成成分であるプリン体が、肝臓で分解されてできる

このように、血液に乗って運ばれてきた老廃物は、糸球体というところで分別されて、最終的に尿として排泄されます。



腎臓にある糸球体(図版作成:酒井春)

腎臓にある糸球体(図版作成:酒井春)

体液の量と電解質濃度を調節する
体液に含まれている電解質は、神経や筋肉などの細胞が活動するさいに重要なはたらきを担っています。電解質には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどがあり、腎臓の尿細管というところで、これらのバランスが調節されています。

さきほど、腎臓にある糸球体で濾過されたあとの原尿は1日で約180リットルにもなりますが、その99パーセントは尿細管で再吸収されています。


糸球体と近位尿細管における再吸収の模式図(図版作成:酒井春)



糸球体と近位尿細管における再吸収の模式図(図版作成:酒井春)
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「たくさん出して、たくさん戻す」というのは効率の悪い作業を行っているように感じるかもしれませんが、食べたものや飲んだもの、そして運動などによって刻々と変わる体液の量と電解質濃度を調節するためには、この方式でなければ間に合わないのです。

私たちが健康な状態のときは、体液はpH7・35〜7・45の弱アルカリ性に保たれています。ところが、糖質やたんぱく質、脂質といった栄養素を細胞が使うと、乳酸などがたくさん作られ、血液は酸性に傾きます。

体内の酸塩基平衡(図版作成:酒井春)



体内の酸塩基平衡(図版作成:酒井春)
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酸性に傾くほど溶液に含まれている水素イオンが多くなり、アルカリ性に傾くほど水素イオンが少なくなります。乳酸については、その名のとおり酸であるため、水に溶けた状態では水素イオンを放出します。乳酸などが体内で増えて体液が酸性に傾くと、吐き気や脱力感、疲労感などがあらわれる代謝性アシドーシスと呼ばれる状態になります。

このように血液が酸性になった場合、乳酸など酸性物質が腎臓から尿として排出されるほか、脳は呼吸を速くして肺から二酸化炭素を排泄し(呼吸性補償)、弱アルカリ性に戻そうとします。それでも酸性に傾いている場合は、腎臓の尿細管から水素イオンが尿へと排出されます。こうして体液は弱アルカリ性に保たれているのです。

血圧を調整する
血液循環で中心的な役割を果たしているのは心臓です。心臓のポンプ機能がなければ、血液は体のすみずみまで運ばれません。同時に、その裏側で腎臓は心臓に負担がかかり過ぎないように血液の量を調節したり、心臓のポンプ機能が低下していたらレニンというホルモンを分泌して血圧を上げたりしています。

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血液循環の表舞台の主役が心臓だとしたら、腎臓はその舞台監督にたとえることができます。

舞台において目立つのは主役ですが、全体を把握して主役だけでなく脇役もサポートし、実質的に管理・運営をしているのは監督です。腎臓も同様に、心臓をはじめ多くの臓器が本来の機能をいかんなく発揮できるように支える、縁の下の力持ちのような存在なのです。

赤血球の数をコントロールする
腎臓の役割には、体内で酸素を運んでいる赤血球の数をコントロールするというものもあります。腎臓の尿細管から分泌される造血刺激ホルモンのエリスロポエチンEPO)には、赤血球の産生を促すはたらきがあります。

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腎臓にある尿細管は、大量の原尿から必要な物質を再吸収しています。しかし、ゆっくりとした受動輸送だけでは、これだけの原尿に対して再吸収を行うのに間に合いません。そこで、ATPなどのエネルギーを利用する能動輸送が活発に行われます。細胞の内部では、ミトコンドリアが、酸素とブドウ糖を使う細胞内呼吸でこのエネルギーを作り出しています。

尿細管上皮細胞という尿細管の細胞には大量にミトコンドリアが含まれているので、他の器官よりも早く酸素欠乏を感知することができます。

尿細管が酸素の不足を感知すると、腎臓の間質線維芽(せんいが)細胞からエリスロポエチンが産生されます。分泌されたエリスロポエチンは、血液によって運ばれ骨髄の幹細胞に作用して、赤血球の分化を促進します。そのため、腎臓の機能が低下するとエリスロポエチンの量が減少し、十分な量の赤血球が作られなくなり、 怠感や息切れ、食欲不振や頭痛などの症状があらわれる腎性貧血を起こします。

 


ビタミンDを活性化させる
ビタミンDは、骨の健康を保つことで知られています。これは食品から摂取したり、皮膚で合成されたりもします。このビタミンDは、肝臓を経由して腎臓に移動すると活性化し、小腸からのカルシウムの吸収を促進します。

そのため、腎臓の機能が低下するとカルシウムの吸収が悪くなり、骨がもろくなる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの原因になることもあります。

腎臓が加齢とともに小さくなることで起こる問題
腎臓の大きさは握り拳ほどで、重さは約150グラムです。しかし、この重さと大きさは、30代をピークに、加齢とともに減っていきます。じつは、60歳を超えると、腎臓の容積は1年で16立方センチメートルずつ減少するとされています。もともとが握り拳ほどの大きさですので、この減少の影響は大きなものだと想像できると思います。


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加齢によりこうした変化が起こるのは、腎臓の組織が少しずつ壊れていくからです。前節で見たように、腎臓の機能が大きく低下すると貧血が起こり、骨がもろくなります。

また、腎臓で尿が作れなくなれば、体液中の老廃物が滞って毒素となり、全身の細胞にたまります。これが尿毒症です。尿毒症では、むくみ、不整脈などの身体症状だけでなく、不眠や意識障害といった精神症状もあらわれます。この状態を放っておくと、血管や臓器へのダメージは加速して死に至ります。

このように腎臓の機能が失われると、最終的には力尽きた腎臓の代わりに、汚れた血液を専門の機器で浄化して体に戻す人工透析や、腎臓を移植する腎移植が行われることになります。


腎臓移植の現在。移植を待つ患者は1万4千人以上!
腎臓移植について、ここでその歴史や最新の話題に簡単にふれておきます。

世界初の腎移植は、1954年12月23日に、米国マサチューセッツ州ボストンのピーター・ベント・ブリガム病院(現・ブリガム・アンド・ウィメンズ病院)で行われ成功しました。

このときの腎臓は、患者の一卵性双生児の兄弟から提供されたものです。この功績から、移植手術を行った外科医ジョセフ・マレーはノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

その後、1960年代になると免疫抑制剤の開発によって一卵性双生児以外からの腎臓提供が可能になりました。

腎臓移植の現状では、移植できる腎臓が十分ではないため、人工透析をしながら順番を待っている患者数が1万4千人以上いるとされています。

ブタの腎臓の人体に移植する手術も行われた
最近では、ブタの腎臓を人体に移植する手術が行われたというニュースを見聞きした方もいらっしゃるのではないでしょうか。

2024年、ボストンのマサチューセッツ総合病院で、遺伝子を改変したブタの腎臓によるヒトへの移植手術が初めて行われました。移植を受けたのは62歳の男性で、2型糖尿病と高血圧、そして末期の腎臓病を患っていました。

手術自体は成功しましたが、この患者さんは2ヵ月後に死亡しました。ただ、手術後にこの腎臓は順調に機能し、この方が人工透析をする必要はなくなったそうです。

じつは、この執刀を行ったチームの一人は同病院に勤務する日本人医師の河合達郎先生です。現在日本国内でも、東京慈恵会医科大学などのグループが、重い腎臓病を患う胎児にブタの腎臓を移植する手術を計画しているそうです。

再生医療の分野では、おもに幹細胞を用いた研究が進められていますが、腎臓での実現はまだ先になると考えられています。

理由の一つが、糸球体と尿細管を組み合わせる点にあります。腎臓の構造はとても複雑で、その機能もとても繊細なものであるため、その実現には時間がかかると考えられています。