同じクスリや治療でも、時間帯によって効果が大きく変わることが判明しつつある。それは日々の暮らしでも同じこと。自分の中から聞こえてくる「体内時計」の針の音に耳をすませば、より健やかに過ごせる。
朝は血管が詰まり、昼は血管が破れる
人間の体は、約24時間周期の生体リズムに従って大きく変動している。それに合わせて、さまざまな病気にも一日の中で起こりやすい時間帯が存在する。死を招くような深刻な疾患であっても、決して例外ではない。
朝起きてまず注意すべきは、脳梗塞と心筋梗塞だ。金沢大学教授の安藤仁氏が解説する。
「目が覚めた直後は体内の水分量が少なくなっているため、血液もドロドロしていて固まりやすい。そのため、血管が詰まって、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすリスクも高まるわけです」
人間は一般的に、活発に活動する昼間になると、血圧も上昇していく。そのため一日の中で、もっとも血圧が高くなるのは午後だ。
「血圧が上昇すると、血管への負荷も大きくなっていきます。脳の血管が破れれば脳出血、心臓から全身に血液を送り出す大動脈が破れれば大動脈解離を引き起こしかねません」(安藤氏)
昼から夕方にかけて人間の体内環境は安定しているため、血管が破れるリスクを除けば、この時間帯に発症しやすい深刻な病気はそう多くない。しかし夜になると、さまざまな疾患リスクが高まる「魔の時間帯」が待ち受けている。
典型的なのが胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍だろう。夜は胃液の分泌が盛んになるので、胃の中の粘膜が傷ついて潰瘍が進行しやすい。実際に安藤氏によれば「夜間に胃に穴が開いて、病院に救急搬送されてくる患者は少なくない」という。
睡眠中に命を奪われかねないのが、誤嚥性肺炎だ。人間は食べ物などがのどを通るとき、誤って気管に入り込まないように、無意識のうちに食道へと誘導しており、これを嚥下反射という。
しかし、眠っていて意識がない間は、この嚥下反射が抑制されてしまう。そのため、口の中の唾液がうまく飲み込めず気管に入ってしまい、そこに含まれる歯周病菌などが炎症を起こして、誤嚥性肺炎を引き起こすのだ。
活発な副交感神経が死の病を招く
夜になると体を休める副交感神経が活発に働き、休息状態へと向かっていく。ところがこの副交感神経が、さまざまな疾患を招いてしまう。前章でも見たように気管支喘息はそのひとつだ。
「副交感神経が優位になると、気道が狭まって呼吸が苦しくなっていく。そのため喘息の発作はとくに午前4時ごろに起こりやすいことが知られています」(自治医科大学名誉教授の藤村氏)
たかが喘息といって、侮ってはいけない。年齢を重ねると肺機能が低下していくため、ちょっとした発作で呼吸困難になりかねないのだ。
同じく異型狭心症も、副交感神経が優位になる深夜から早朝にかけて、発症のピークを迎える。
「心臓に酸素や栄養を供給する冠動脈が急速に縮んで狭くなり、一時的に心臓が酸素不足になって強い痛みが生じる疾患です。心筋梗塞などと同じく、突然死を招くリスクも非常に高い」(藤村氏)
何気ない一日にも、いつ死をもたらすリスクが潜んでいるかわからない。どの時間帯に、どんな病気が起こりやすいか知っておくだけでも、命を守る助けになるはずだ。
「週刊現代」2025年07月07日号より