日本の政治の行方を決める参院選は中盤だが、財務省は早くも「自公大敗」をにらんでポスト石破選びに動き出した。
「有権者の審判を厳粛に受け止めるべきだということは、よくわかっている」と、石破茂・首相は公示前、勝敗ラインの自公過半数を割った場合には退陣することをほのめかす言い方をした。
だが、大敗すれば首相の辞任だけでは済まない。
自公が衆参ともに過半数を割れば、次の政権は自公を中心に他の野党を連立に加えるのか、野党中心の連立政権か、あるいは与野党をまたいだ合従連衡に進むのか、政権の枠組みそのものが大きく変わることになるからだ。
「少数与党の政権では財政再建に必要な増税はできない。自公の過半数割れはある意味チャンス。参院選後に衆参で過半数を持つ安定政権をつくれば、選挙に振り回されないで財政再建に取り組むことができる。これまでも財務省は政権が代わる時はいくつものシナリオを用意して対応できるように準備してきた」(財務省OB)
参院選の表向きの争点は、野党各党が掲げる「消費減税」と自公の「2万円現金給付」のバラ撒き対決だが、その裏で、財務省は着々と参院選後の増税に向けたシナリオを準備していた。
「消費減税はお金持ちほど恩恵」──石破首相が野党の減税論をそう批判した。その理由について、石破首相は国会でこう答弁している。
「わが国の財政状況はギリシャよりもよろしくないという状況だ。税収は増えているが、社会保障費も増えている。減税して財源は国債で賄うとの考えには賛同できない」
ギリシャは2年に一度、財政危機に陥り、EUから緊縮財政を条件に金融支援を受けている。
この発言こそ、参院選のバラ撒き合戦の裏で、財務省による増税への策略が進められていることを示していると見ていい。
「財務省が増税の絶好のチャンスと考えて動き出した」
財務省を長く取材してきたジャーナリスト・長谷川幸洋氏(元東京・中日新聞論説副主幹)が指摘する。
「日本がギリシャになるとか、借金をこれ以上増やせば国債暴落を招くというのは財務省の決まり文句。総理や有力政治家にそう囁いて、“減税なんてとんでもない”“財政規律を守るためには増税しなければならない”と思い込ませて増税に持っていかせようとする。石破首相のこの発言は、増税必要論に洗脳されていることを物語っている」
参院選のさなかに同じ発言をした総理大臣が菅直人・元首相だ。10年の参院選で「このままいったら(日本は)1年か2年でギリシャみたいになっちゃうよ」と語った。
菅政権はその参院選で消費増税を打ち出して敗北したが、跡を継いで財務大臣から首相になった野田佳彦氏が野党だった自公と協力して消費税率10%への増税法案を成立させた。財政再建派の野田氏を首相に担ぎ、野党を巻き込んで増税レールを敷くシナリオを描いたのは財務省だった。
「石破政権はその野田氏の立憲民主党と組んで年金改革を行ない、日本維新の会とも医療費改革を進めてきた。参院選後は社会保障改革の財源問題が重要な政治テーマになる。財務省が増税の絶好のチャンスと考えて動き出したと見て間違いないでしょう」(長谷川氏)