ペットは大事な存在で家族、という考え方がある。愛情を持つのは悪いことではないが、親バカならぬペットバカ状態の飼い主によって、動物へ愛着を持てなくなってしまったという人たちがいる。ライターの宮添優氏が、無神経な飼い主によって不愉快な思いをさせられても、受け入れない側の責任にされる理不尽についてレポートする。
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北関東某市在住のパート女性(60代)が、申し訳なさそうにこうつぶやく。
「ペットは飼っていませんが、以前は、ワンちゃんもネコちゃんも嫌いではありませんでした。ですが今は、自宅の前を犬の散歩をしている人を見るだけで、気分が悪くなるんです」
自宅裏手の雑木林が切り開かれ、数十戸が立ち並ぶ分譲地が造成されたのは4年ほど前。コロナ禍でリモートワークが広まりつつあった時期で、都心方面から移り住んできた若いファミリーの姿も目立ち、当初は「若い人が増えて地域が活性化する」と喜んだ。犬や猫を飼っている世帯も多く、ペットの散歩で自宅前を通る新たな住人とも顔見知りになった。ところが。
「一部の方ではありますが、うちの敷地内に、ペットにおしっこをさせる人がいたんです。飼い主も”やめなさい”と言っていたので、いずれ収まると思っていました。ですが、毎日、朝夕の散歩時には必ずうちの敷地で用を足されるようになりました」(パート女性)
女性は、新たな住人に気を遣う形で、こっそり飼い主にやめてほしいとできるだけ丁寧にお願いしたというが。
「ペットボトルの水をおしっこにひっかけて”これならいいでしょ”って、あからさまに嫌な顔をされて。飼い主の方にとってはペットボトルの水できれいにしたつもりなんでしょうけど、私らにとってはおしっこが薄まっただけで汚いまま。毎日やられると、臭いもすごいんです」(パート女性)
そしてさらに、事態は思わぬ方向へ進んでいった。
「移住してきたみなさんが、私の家が”ペットにうるさい家”と噂になっていると、仲のよい方が教えてくれました。ペットくらいいいじゃないか、心が狭い、そう言われていると」(パート女性)
造成地が宅地に変わった当初は、新しい人が移住してくることを喜んでいたが、ペットのことをきっかけに、すっかり地域から孤立してしまったと女性は嘆く。
犬や猫が怖い、嫌だという人もいるのに
「ペット」を飼う世帯が増えている中、同様の悩みを抱えつつも「言えない」と漏らす人は少なくない。
「あなたの子供よりペットの方が大事だ、と言われているような気持ちになりかなり不愉快でした。今までは、電車にペットが乗っていてもなんとも思いませんでしたが、子供が出来て、そしてトラブルに巻き込まれてみて、初めて気がついたんです」
都内在住の会社役員の男性(30代)が経験したトラブルは電車内で起きた。就学前の息子と2人、近郊の行楽地に出かけようと電車に乗っていたところ、後から乗り込んできたのは、初老の女性。手には大きなかごをぶら下げていて、中には女性の飼い犬がいたのだ。
子犬に追いかけまわされた経験がある男性の息子は、かごの中の犬に気がつき不安な表情を見せたという。すると。
「女性が息子をみて、ワンちゃんが怖いなんて男の子のくせに意気地なしね、と笑うんです。周囲のお客さんも、笑っていました。もちろん、すごく悪意があるとまでは感じません。
でも、改めて考えてみると、犬や猫が怖い、嫌だという人もいるのに、そういった人たちに気を遣うべき、という論調がほとんどないことに驚きました。ペットを乗せるなとは言いませんが、周囲への配慮はすべきでしょう。しかし、その場の空気に押されて”すいません”としか言えなかった。息子にも申し訳ないです」(会社役員の男性)
猫カフェの臭い問題
以前は面倒をきちんとみるのが難しいと敬遠されることも多かったが一人暮らしでも、小型犬や猫を飼う人が目立ってきた。確かに見守りグッズやサービスが利用しやすくなってきたので、ある程度は可能だろう。
だが、猫を飼っていた経験がある筆者としては、一人暮らしでどうやってペットを健康的に飼育できるのか、疑問に思うことも多い。それでもペット人気の高まりはとどまることを知らず、都会には「ペット」と直接ふれあうことができる「犬カフェ」や「猫カフェ」も相次いでオープンしている。
東京・新宿区内の雑居ビルで飲食店を営む男性経営者(60代)の店と同じフロアに「猫カフェ」がオープンしたのは2年ほど前のこと。カフェの経営者という男性が挨拶に来て猫カフェをオープンすること、騒がしくなるかもしれないことなどを謝罪したという。
「腰も低くて感じのいい男性でね。猫は保健所から引き取った保護猫だとも言っていて、立派な仕事だとも思いました。でも、営業が始まると、とにかく迷惑行為だらけ」(男性経営者)
まず起きたのは、猫カフェからペットの糞尿の臭いが漂ってくることだった。猫カフェが毎日ゴミとして出す糞尿を入れたビニール袋がバックヤードに山積みになっていて、男性の飲食店の方へ臭いが流れ込んできていたのだ。さらに別フロアにも系列のペット連れOKのカフェがあり、客が連れてきたペットの粗相が相次いだ。
「エレベーターや共用の廊下、そして店の前でもペットがおしっこしたりウンチしたりね。猫カフェの従業員もお客さんは”アラー”などと言って盛り上がるだけで、さっと拭き取って終わり。その様子を見ていたうちの店のお客さんは、不衛生だと怒って出てきましたよ。
本当に頭に来て文句も言いました。でも、ペットはそういうものです、と言って引かないどころか、こちらがペットに理解がない、現代は違う、などと居直られました」(男性経営者)
飲食店経営者の男性経営者がもっとも懸念するのは、やはりペットを媒介して人間に悪影響を及ぼす、ウイルスや病気の発生だ。
「つい最近も、獣医師の男性が猫にかまれて亡くなったという報道をみました。もちろん、極端な例だとは思いますが、うちとしてはそうも言っていられない。ペットが苦手だというお客さんは確実にいますし、アレルギーが出るからと、猫カフェが出来てから店に来なくなった常連さんもいる。それでも、ペットが優先されるんですかね」(男性経営者)
ペットショップが林立し、子猫や子犬が数十万、時には数百万で取引されることもある現代。悪徳ブリーダーの存在なども指摘され、動物愛護の観点からの問題がある一方で、ペット人気は依然として高止まりの状態だ。
高齢世帯や小さな子供を持つ世帯がペット飼うことでポジティブな影響があるという研究結果も確かにある。だがその一方で、ペットが苦手、という人たちも確実にいるしアレルギー持ちの人もいる、すでにここで紹介したような「ペット優先過ぎる飼い主」への嫌悪感も、静かにではあるが、拡大しているようだ。