THE GOLD ONLINE によるストーリー
お金の管理が苦手で家計は妻に任せきり。それでも、できる限り節約に協力してきた夫。「うちはお金がない」と長年言われ続けてきた中、突然「家を買わない?」という妻に、思わず苛立ってしまいます。ところがその言葉の裏には、思いもよらぬ事実が……。今回は、そんなエピソードを通じて、「家計を任せること」のリスクと向き合い方について、小川洋平FPが詳しく解説します。
「うちにはお金がない」…節約生活を20年続けてきた夫
「ねぇ、あなた。家を買わない?」
年収500万円、地方企業で働く高田誠さん(仮名・56歳)は、妻の何気ないひと言に思わず声を荒げてしまいました。
「なに? そんな金どこにあるっていうんだよ」
それも無理はありません。高田さんの月の小遣いはたった2万円。昼食は前日にスーパーで買った半額のおにぎりやパン。コーヒーは自宅で淹れて水筒に詰めて持参し、コンビニにも極力寄らない。そんな涙ぐましい節約生活を、もう20年も続けてきたのです。
「うちはお金がないのよ」が妻の口癖。家計はすべて妻任せでした。家計の収支がどの程度かも知らぬまま、言われるがままに財布の紐を締め、若い頃好きだったゴルフや、飲み会に出席した際の二次会もできるだけ参加せずに帰るようにしていました。それもこれも「家族のため」と踏ん張ってきたのです。
妻も週3回のパートで家計を支え、子ども2人を私立大学へと送り出しました。子どもたちが独立すると、今度は「老後のお金がない」という妻。それを聞いて節約生活を続けていた高田さんにとって、家を買うという言葉はあまりにも現実味がありませんでした。
冗談じゃない、こっちは日々をやりくりするのに必死なのに。 高田さんの怒りは当然でした。しかし次の瞬間、妻の口から出た「実はね……」の言葉に、時が止まったのです。
「家を買うためのお金、あるから」妻の衝撃告白
「家買うために2,000万円、貯めてあるから」
妻の告白に思わず絶句しました。なんと妻は、夫に内緒で2,000万円を貯めていたというのです。結婚当初から、家計のすべてを一手に引き受けてきた妻。子どもたちの教育資金や生活費をやりくりしながら、密かに住宅資金までも積み立てていたといいます。
驚きつつも、高田さんはまだ不安でした。「全財産を家に使うのか?」……しかし、妻は続けます。
「老後資金は、別にあるから」
そして、笑顔でタブレットを差し出しました。「このエリアなら、2,000万円もあれば築浅のマンションが買えるのよ。夫婦ふたりには小さい部屋でも十分でしょ?」
「いや、驚いた……そんなに貯めてたなんて。なんで今まで言わなかったんだよ」
「言ったらあなた、節約やめちゃうでしょ? ここまで簡単に貯められるわけじゃないんだから」
今まで「お金がない」と言われ、疑うことなく倹約を重ねてきた日々。辛い時もありましたが、それは、お金の管理が苦手な夫に代わって、妻が家族の未来のために描いていた秘密のプランだったのです。
まさに妻の作戦勝ち。高田さんは「一生賃貸」と諦めていたはずのマイホームを手に入れることが、突然現実的になったのです。
家計管理を任せきりにすることのリスク
今回の高田さんのケースは結果として大成功でした。しかし、実際には真逆の結末を迎える家庭も少なくありません。
家計を一方に任せきりにした結果、気づけばクレジットカードのリボ払いや借入れが膨らみ、家計が破綻寸前まで追い込まれていたという事例もあります。借金返済に行き詰まり、職場の積立金や町内会費に手をつけてしまった……そんな取り返しのつかないことに発展してしまったケースさえ存在します。
また、必要以上に節約を強いられ、交際費や趣味に使えるお金を削りすぎたことで、職場や友人とのつながりが希薄になり、孤独やストレスから精神的に不安定になるといった問題に発展することもあります。
家計を誰か一人に「任せる」こと自体は悪くありませんが、「任せきりで無関心」という姿勢が、大きな落とし穴になることもあるのです。
家計は“見える化”と“自律的な管理”がカギ
高田さんの妻のように、堅実に家計を管理し、未来を見据えて積み立ててくれるパートナーがいるのは非常に心強いことです。ただし、それを当然と受け止めるのではなく家計を一緒に把握・共有する姿勢も必要です。
もし、自分のやりたいことを我慢し続け、「サイフを握る側」に従うだけの生活になっているとしたら、それは信頼して任せているというより、自分の人生を自律的に生きられていない状態とも言えるでしょう。
家計の現状がどうなっているのか、毎月いくら支出があり、どの程度貯蓄ができているのか、そして将来のライフイベントに備えて、どんな支出がいつ発生するのか……。 こうした情報を家族で共有し、自分のライフスタイルに合わせ、支出に優先順位をつけ、そして不足するようであれば収入を増やすという選択肢も当然あり得るわけです。
自律的に収支をコントロールして管理することが、家計管理の本質的な考え方であるべきです。どちらかに決定権を委ねて言いなりになることとは、まったく違います。
また、教育資金や住宅費、老後資金といった「人生の三大支出」については、あらかじめ金額をシミュレーションし、できるだけ早く準備に取りかかることが重要です。目先の支出だけでなく、数年先、十数年先を見据えたお金の準備を進めておくことで、不測の事態にも慌てずに済みます。
老後の資金がもしも不足しそうならば、働く年数を伸ばしたり、引退後も無理なく働ける環境で僅かでも収入を得る、公的年金を繰り下げ受給するなどの選択肢もあり、何も貯めるだけがすべてではありません。
また、将来の資金を貯めるならば、インフレや金利変動への備えとして、預金や保険商品だけでなく、NISA等も取り入れることも効果的です。 自分が望む人生のために収支を管理し、最大限自分らしく生きるための計画を立て、実行していくことが満足度の高い人生を送るために重要なことです。
「任せる」だけじゃなく、「ともに描く未来」が家計管理の本質
今回は、しっかり者の妻のおかげで人生のお金の問題をクリアできた高田さんの事例をお伝えしました。
このケースのように奥さんや旦那さんのどちらかが家計を管理して、任せきりにしてしまうこともあるかもしれません。ですが、家計簿をつける作業をどちらかに任せるとしても、定期的に家計をチェックしてどう収支をコントロールしていくかを考えていくことが大事です。
家計を任せるのは、相手を信頼しているからこそでしょう。ただし、それは「自分には関係ない」と切り離してしまうこととは違います。「一緒に未来を築いていく」という意識のもとで家計を共有していくことが、本当の意味での信頼だと言えるでしょう。
小川 洋平
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