鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第33回は「連結器」について。
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今回のテーマは、「連結器」です。鉄道車両の連結器には、電気回路や空気管をつなぐ機能を持つものも存在します。ただし、ここでは車両同士を機械的につなぐ機能に注目し、その種類や構造を紹介します。
役割と構造
連結器は、車両同士を連結する装置で、引張力や圧縮力を伝達する役割があります。つまり、たんに車両をつなぐだけでなく、機関車などの動力車が動き出すときに他の車両を引っ張る力や、ブレーキをかけるときなどに働く力を伝えているのです。
連結器は、大きく分けると手動の連結器と自動の連結器があります。手動の連結器は、連結作業を作業員の手作業で行うものです。自動の連結器は、連結作業を自動で行うもので、広い意味で「自動連結器」と呼ばれます。
手動の連結器の一つであるリンク式連結器は、リンク(鎖)をフックに引っ掛けるもので、初期の鉄道で使われました。日本の鉄道では、当初リンク式連結器や、それを改良したねじ式連結器が使われたあと、1925(大正14)年にほとんどの車両の連結器が自動の連結器に交換されました。
現在日本の鉄道でおもに使われている連結器には、並形(なみがた)自動連結器・密着式自動連結器・密着連結器の3種類があります。他にも、電車の固定編成で使われる棒連結器などもありますが、ここでは割愛します。
3種類の連結器
次に、この3種類の連結器の特徴をそれぞれ紹介します。
並形自動連結器は、日本の鉄道で長らく使われた連結器です。1925年に一斉導入されたのは、このタイプの連結器です。
並形自動連結器は、後述する密着式自動連結器や密着連結器とくらべると、構造がシンプルです。ナックルと呼ばれる部品同士が接触して動くと、自動的に錠がかかり、外れなくなるしくみになっています。見た目が、人間の手の形に似ていますね。
日本の鉄道では、かつて機関車や客車、貨車などで並形自動連結器がよく使われていました。現在は客車が希少な存在になったので、おもに機関車や貨車に使われています。
並形自動連結器の大きな特徴は、「遊間(ゆうかん)」と呼ばれる連結器のすき間があることです。これによって、車体の高さの差を吸収できるという利点がある反面、車両が前後方向に振動し、乗り心地が悪くなるという弱点があります。
密着式自動連結器は、並形自動連結器を改良し、「遊間」を小さくしたものです。並形自動連結器と同様にナックルがありますが、凸部と凹部があり、連結すると両者が噛み合う構造になっています。
下の写真は、上から見た並形自動連結器と密着式自動連結器です。「遊間」は、並形自動連結器にあり、密着式自動連結器にほとんどありません。
密着式自動連結器は、おもに高速貨物列車の機関車や貨車で使われています。なお、一部の気動車や電車では、連結器にかかる力が小さいので、一回り小さい密着式自動連結器(密着式小型自動連結器)が使われています。
密着連結器は、その名の通り連結器同士が密着する連結器です。凸部と凹部があり、両者が接近すると回転錠が回り、外れなくなるしくみになっています。
密着連結器は、おもに電車で使われています。ただし、近年は一部の気動車でも使われています。
なお、並形自動連結器と密着式自動連結器は、互いに連結できます。ただし、どちらも密着連結器とは連結できません。
このため、一部の機関車では、双頭連結器が設置されています。双頭連結器とは、3種類の連結器に対応する連結器で、向きを90度変えると、対応する連結器の種類を変えられる構造になっています。
ここでは、日本の鉄道でおもに使われている3種類の連結器を紹介しました。国内の一部鉄道や、海外の鉄道では、その他の種類の連結器を使った例があります。
新幹線の連結器はどこにある?
連結器は、先述した棒連結器などを除けば、基本的にすべての車両の前後にあります。ただし、外見ではそれがあることに気づかない車両もあります。その代表例が新幹線の車両(新幹線電車)です。
新幹線電車では、先頭車の先頭部に「ノーズカバー」があります。連結器はその内部にあるので、基本的には外から見えません。
ただし、東北新幹線では、2つの編成がつながって(併結して)走ることがあります。このため、一部の新幹線電車では「ノーズカバー」が開き、連結器が外から見えることがあります。また、東北新幹線の福島駅や盛岡駅などでは、2つの編成の切り離し・連結(分割・併合)を行う様子を見ることができます。
【プロフィール】
川辺謙一(かわべ・けんいち)/交通技術ライター。1970年生まれ。東北大学工学部卒、東北大学大学院工学研究科修了。化学メーカーの工場・研究所勤務をへて独立。技術系出身の経歴と、絵や図を描く技能を生かし、高度化した技術を一般向けにわかりやすく翻訳・解説。著書多数。「川辺謙一ウェブサイト」も随時更新。