道草の記録

株主優待・ふるさと納税の返礼品・時々パチンコ

本当にコスパが高いのは「2015年発売のマンション」だった…!《高いのに、ショボい》ますます貧相になる新築マンションの間取り・仕様を専門家が大解剖

 

 

2024年における首都圏新築マンションの平均分譲価格は7820万円で、2007年の4644万円から1.68倍も高くなった。

一方、同期間の戸あたり平均住戸面積は縮小しており、約6畳の寝室まるまる一室分が失われた計算だ。

 

本来66平方メートルなら2LDKの間取りで設計されるのが適切だが、不動産デベロッパーは現在これを3LDKで販売。

部屋や建物のあらゆる部分がコストカットされた、安普請の新築マンションばかりになっているという。

 

前編記事『いま高騰中の新築マンション、こんなに貧相になっていた…!《専門家が間取り・仕様を大解剖》不動産デベロッパーが絶対に教えたくない「コストカットの裏側」』に引き続き、不動産評論家の牧野知弘氏が、昨今のきらびやかな新築マンションの裏に隠されたコストカットの数々を解説する。

できるだけ設備は低品質に

住戸内設備はどうだろうか。ここも節約の嵐だ。以前であれば扉が静かに閉まって指が挟まれにくい食器棚やディスポーザー、食洗器などが台所から姿を消している。ガスコンロの数を3個から2個に減らすだけにとどまらず、中にはグリルを設置していない物件まで出現した。魚を家で焼くことが少なくなったためだろうか。

 

細かく見れば、各部屋のクロスのグレードを落とす、シャワートイレを格安のものにする、シンクやふろ場のカランを低価格のものにする、インターフォンの機能を削る、洗面台のミラーの質を下げるなど、コストカットは随所でみることができる。

 

 

 

 

このほかにも見落としがちだが、

フローリング床の等級、

窓サッシのグレード、ガラスの質を下げる、

室内間仕切り扉、玄関扉の素材を低品質なものにする、

扉自体のサイズを小さくする、厚みを薄くする、バルコニーの奥行を狭くするなど、

素人ではなかなか判別できない部分にも節約の手がくまなく行き届いている。

 

デベによる涙ぐましい努力

では、建物自体に着目してみよう。最近の新築マンションは住戸内のスラブ(梁)が目立つ。

以前はボイドスラブ工法といって、コンクリートスラブに空洞(ボイド)を設けてそこに鋼線(ボイド管)を通してスラブ全体で床を支えることで、住戸内の小梁が少なくなり、間取りをすっきりさせていたが、建設費が余計にかかることから採用していない物件が増えている。

 

二重床もコストがかかるため採用を見送るケースが増えた。住戸ごとに玄関のアルコーブを設けず、共用廊下にベタに出る構造にしていることも少なくない。

 

 

 

 

 

 

建物の階高を低くすることも建設費の引き下げに大いに貢献する。

住戸内天井高は近年どんどん高くなってきていたが、最近の物件では2400mm程度と逆に昭和仕様かと思われるような高さになっているものもある。

 

バルコニー手摺をガラスやアクリルにせずアルミ柵にする、バルコニー床にダイノックシート等を敷かずにコンクリート金ごて仕上げとする、バルコニーに備えたシンクなどは廃止する。こうしたコストカットも珍しくなくなった。

 

エレベーターの設置数も節約ポイントだ。住戸数が50戸程度で10数階のマンションであれば1基、低層であれば100戸くらいでも1基にしている。

マンションエントランスやアプローチ、ホールなどは見た目重視なので、あまり節約は見られないが、天井高は低くして、家具や備品で演出するだけで面積は小さめにしている。

 

そのほか、内階段をやめて建物に外付けした階段にする、駐車場は付置義務ギリギリの台数にして3段の機械式駐車場にする、敷地内の植栽は低木を中心として費用をかけない。また、外廊下の場合はコンクリート立ち上げにせず鉄柵などですませる、内廊下やエレベーター内にはエアコンを設置しないなど、マンションデベロッパーによる涙ぐましい節約は量、額ともに膨大だ。

 

コスパの高い中古マンションは…

残念なことに多くの一般人にとって、見た目でわかる節約部分はわずかである。モデルルームは販売対象ではない、高級な家具や備品で着飾ることで、新築マンションに住む夢を演出することに余念がない。

 

だが、昨今の建設費の高騰は確実にマンションの仕様を落としていることに敏感になるべきだ。10年から15年前程度のマンションであればあたりまえの設備仕様だったものが省かれていたり、グレードダウンしていたりするのが現状なのだ。

 

そうした意味では、見た目は良くても実質は価値が低い新築マンションを多額のローンを組んで無理やり購入するよりも、築10年程度の中古マンションを丹念に探して購入するのが賢明な作戦といえるだろう。

 

ただ、こうした節約のすべてが悪いとは言い切れない部分もある。

これまでの新築マンションは常に時代のトレンドを追うあまり、本当は必要のない高級な設備や、一度も使うことのない機能を持つ機器を備えてきた歴史がある。外国製のお洒落なカランを採用しても、故障や交換が必要になった時に、部品が取り寄せられずにメンテナンスができない、更新するのに日本の製品の規定と適合しないなど、長く暮らしていくのにそぐわない仕様のものも採用されてきた。

 

本当に必要な設備を選ぶ時代に

これからはコストパフォーマンスを重視する世代がマンションを選ぶ時代になる。

デベロッパーが考えるお仕着せのデザインや設備仕様のマンションではなく、たとえば各住戸に備わる住設機器の多くは購入者が選択できる契約が結べるようにする必要が出てくるだろう。

暮らしに本当に必要な設備を購入者が自ら判断し、納得の上で採用するのである。

 

 

 

 

 

こうした傾向をデベロッパーやゼネコンは面倒だとして嫌うだろうが、住宅を量として多数供給していく役割はなくなりつつある。

 

消費者の価値観が多様化していく時代にあって、これからはマンションのような共同住宅であっても、それぞれの個性や価値観を体現した住設機器やデザイン仕様があたりまえになっていくだろう。

 

すでに中古マンションを購入して自分仕様にリノベーションすることが主流になってきている。新築マンションの在り方もこうした建設費上昇を契機に変化していくことが期待される。

————

 

 

 

オラガ総研代表取締役

牧野 知弘

TOMOHIRO MAKINO

PROFILE

東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、1989年に三井不動産入社。不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年、日本コマーシャル投資法人執行役員に就任し、J-REIT市場に上場。2009年、オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任する。著書に『空き家問題』(祥伝社新書)、『2020年マンション大崩壊』(文春新書)、『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)、『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)などがある。