(写真:Wakko/イメージマート)
(頼藤 太希:Money&You代表取締役/マネーコンサルタント)
「年金は保険料を払っても元は取れないのだから、払わない方がいい」と見聞きしたことがあるかもしれません。
確かに、もらえる年金額だけで老後の生活を送るのは難しいでしょう。
しかしそもそも、年金額だけで暮らせるように年金制度は設計されていません。
老後にもらえる年金額は、現役時代の収入の3割程度となっています。
仮に年金額だけで暮らせるようにして欲しいなら、相応の負担が必要です。
オランダ、アイスランド、デンマークのような北欧の国々では、もらえる年金額が現役世代の収入の7割程度となっていますが、現役時代に多くの税金・社会保険料を納めています。つまり、高負担だからこそ、高受給が可能なのです。
今の年金保険料の水準で文句を言う日本人が多いのですから、さらなる高負担は現時点では国民の理解が得られないでしょう。
では、現行の年金制度では、そもそも年金保険料は払っても元を取れないのでしょうか。生涯で支払う年金保険料の金額と、老後にもらえる公的年金額を計算して考えてみましょう。
自分が払った以上に年金額がもらえる仕組み
国民年金は、20歳から60歳までのすべての人が加入する年金です。
一方、厚生年金は、会社員や公務員が勤務先を通じて加入する年金です。
老齢年金は原則65歳からの受給ですが、死ぬまでずっともらえるありがたい仕組みとなっています。
ところで現役世代が納める年金保険料は、将来の自分たちの年金のために積み立てているのではなく(正確には一部は積立金に回ります)、「現在の年金生活者」の支払いに充てられています。この仕組みを「賦課方式(ふかほうしき)」といいます。
簡単にいうと、現役世代から年金受給世代に仕送りをするような仕組みです。
現役世代が支える「賦課方式」とは
年金制度の仕組みには、自分が納めた金額しかもらえない「積立方式」というのもあります。
どちらが良いのか、よく議論されますが、インフレを考慮した年金額を安定的に年金生活者へ支払うには賦課方式がベターだと結論づけられています。
日本だけでなく、多くの先進国の年金制度で賦課方式が取り入れられています。
年金制度改革が大きな焦点に(写真:共同通信社)
賦課方式は、現役世代がいる限り破綻しにくい仕組みといわれますが、年金制度を続けるためには、もらえる年金額を減らしたり、受給開始年齢を遅くしたりする調整を行う必要があります。これは多くの国でも既に取り入れられている仕組みです。
日本は少子高齢化が一番進んでいます。
よって、将来の不足分に備えて、年金積立金を活用することを予定しています。
現役世代が納めた年金保険料のうち、年金の支払いに充てていない分を「年金積立金」として積み立てていて、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用して増やしています。
年金給付の財源が不足してきたら、その不足分に年金積立金が活用されます。
2024年12月末時点で、GPIFの運用資産額は260兆円(うち運用による累積収益額は164兆円)を超えています。
このように、自分が納めた金額しかもらえない「積立方式」とは異なり、「賦課方式」では自分が納めた年金保険料を超えて、年金額を受給できることを意味しています。
国民年金の保険料と年金額、元が取れるのは何年?
国民年金の保険料はみな同じで、2025年度は月額1万7510円です。
この金額を20歳から60歳までの40年間(480カ月)にわたって納めたとすると、国民年金保険料の総額は1万7510円×480カ月=848万4800円となります。
国民年金保険料を自ら納める必要があるのは、個人事業主、フリーランス、学生、無職などの人(国民年金の第1号被保険者)です。国民年金保険料が未納だと、その分もらえる年金額が減ります。
国民年金からもらえる老齢年金を老齢基礎年金といいます。老齢基礎年金の金額は、国民年金保険料の納付月数が480カ月に達していれば、満額を受け取ることができます。
国民年金額は毎年改定されており、2025年度の満額は年83万1700円(1956年4月1日以前生まれの人は年82万9300円)です。仮に、65歳から90歳までの25年間にわたって年83万1700円を受け取った場合、総額は83万1700円×25年=2079万2500円となります。
国民年金保険料(40年間)…848万4800円
老齢基礎年金(25年間)…2079万2500円
老齢基礎年金合計は、国民年金保険料合計の約2.5倍となり、かなり得することがわかります。
老齢基礎年金を65歳から受け取り、その後何年受け取れば、支払った年金保険料の元が取れるのかという計算は、「国民年金保険料合計÷1年間の老齢基礎年金額」で求めることができます。
848万4800円÷83万1700円=10.201…
よって、約10年受け取れば元を取れるということです。
厚生年金の保険料と年金額 元が取れるのは何年?
厚生年金からもらえる老齢年金を老齢厚生年金といいます。
厚生年金の保険料や受給額は、毎月4〜6月の給与の平均額(報酬月額)から算出する「標準報酬月額」によって決まります。
つまり、給与の額によって保険料や受給額が変わります。
ここでは、
・月収(標準報酬月額)30万円
・22歳(社会人)から65歳までの43年間働いた
と仮定して計算します。
月収30万円の場合の厚生年金保険料の自己負担額は月2万7450円です。
なお、厚生年金保険料の中には国民年金保険料分も含まれているため、この金額を負担するだけで国民年金保険料も全額払っていることになります。会社員や公務員は国民年金と厚生年金の両方から老齢年金をもらうことができます。
22歳から65歳までの43年間、月収30万円で働いた場合の厚生年金保険料は2万7450円×12か月×43年間=1416万4200円です。
老齢厚生年金額は「平均標準報酬月額×給付乗率(0.005481)×加入月数」で計算します。
仮に22歳から65歳までの43年間、月収30万円で働いた場合に65歳からもらえる老齢厚生年金の年額は30万円×0.005481×516月=84万8458円となります。
65歳から90歳までの25年間だと、老齢厚生年金の金額は84万8458円×25年=2121万1450円です。加えて、老齢基礎年金(25年間)2079万2500円がもらえます。
厚生年金保険料総額(43年間): 1416万4200円
基礎年金+厚生年金(25年間):2079万2500円+2121万1450円=4200万3950円
受け取れる年金額は払った保険料の約3倍となり、老齢基礎年金だけの場合よりもっと得です。
「基礎年金+厚生年金」を65歳から受け取り、その後何年受け取れば、支払った年金保険料の元が取れるのかという計算は、「厚生年金保険料合計÷1年間の年金額」で求めることができます。
1416万4200円÷(83万1700円+84万8458円)=8.430…
よって、約8年半受け取れば元を取れるということです。
老齢厚生年金が受け取れる場合の元を取れる年数は、保険料、年金額、加入月数など人によって変わりますので、上記はあくまでも参考としてご確認ください。
ところで、厚生労働省「令和5年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.14歳となっています。
また、65歳の平均余命は男性19.52年、女性24.38年です。
65歳から年金を受給して元が取れる可能性は高いことがわかります。
賦課方式であることに感謝しなくてはなりませんね。
それはつまり、現役世代に感謝をしなければならないということです。
「年金を払っても元は取れない」はほぼない
生涯で支払う年金保険料の金額と、老後にもらえる年金額を見てきました。年金はもらい始めて10年程度で元が取れ、それよりも長生きするほど得になります。
とはいえ、年金額だけで生活ができるほど十分にもらえるわけではありません。
やはり、iDeCoやNISAなどを活用しながら、自助努力で資産形成をしていく必要があります。
年金制度を正しく理解し、ありがたい制度であることに感謝しつつ、資産形成を進めていきましょう。
頼藤 太希(よりふじ・たいき) マネーコンサルタント(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に創業し現職。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、フジテレビ「サン!シャイン」、BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」などテレビ・ラジオ出演多数。主な著書に『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など、著書累計180万部。YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki