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なんと、がんの薬が効かなくなる…!?じつに恐ろしい「がん細胞の薬剤耐性」…その対抗策を公開する

昨今、がんにかかる人は増加しているが、死亡率は年々下がり続けているのをご存じだろうか――。

「がん治療」の進化が著しいことが大きな要因の一つだ。

一方で、患者側の最新医療に関する知識がアップデートされていないばかりに、手遅れになってしまうケースも残念ながら少なくないという。

 

がん治療で後悔しないために、私たちが身につけておくべき知識とは何か。

国立がん研究センターが、現時点で最も確かな情報をベースに作成した『「がん」はどうやって治すのか』から、最新の治療薬についてお伝えしたい。

今回は、がん治療における「薬剤耐性」の問題についての解説する。

 

【書影】「がん」はどぽうやって治すのか

*本記事は国立がん研究センター編『「がん」はどうやって治すのか』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

 

縮小したがんが、また大きくなってしまう

次々に新しい治療薬が登場しても、決して解決されないのが、がん細胞の薬剤耐性の獲得です。

そもそも薬が効かない場合を自然耐性といい、最初は効果があったのに治療を継続するうちに効かなくなることを獲得耐性と呼びます。

薬物療法には、手術のできないがんをコントロールするという重要な役割があります。

このような治療で問題になるのが、獲得耐性です。

ある薬を投与してがんが縮小しても、それは一時的であって、薬が効かなくなり、結局、がんがまた大きくなってしまうからです。

なぜ薬が効かなくなるのか?

たとえば、がん細胞の分裂時に微小管に結合して抗腫瘍効果を発揮するタキサン系の薬では、微小管の構成成分の遺伝子に変異が入り過剰発現するようになると薬剤耐性が獲得されることがあります。

 

また、分子標的薬では、標的分子に変異が入って薬が結合できなくなったり、標的よりも下流のシグナルが活性化したりすることで薬が効かなくなることがあります。

 

このように薬剤耐性が生じるメカニズムは、各薬剤ががんを障害するメカニズムに起因している場合があります。

一方で、そもそもがんの塊のなかに薬の効かない薬剤耐性がん細胞が存在しており、薬の投与により耐性をもったがん細胞だけが残ってしまうケースがあります。

 

また、さまざまな薬が同時に効かなくなる多剤耐性は、細胞膜上にトランスポーター(薬物輸送タンパク質)が増えて細胞内の薬剤を排出してしまうために生じます。

 

がんが薬剤耐性を獲得したらどうするか

がんが耐性を獲得してしまったら、その薬剤による治療を続けることはできませんが、治療を諦めるわけにはいきません。

現場の医師は、ほかの薬による治療の可能性を探ります。

最近の治療では、薬を変えながら、できるだけ長期間にわたってがんをコントロールして、延命することが重要になっています。

 

というのも上手く長期にわたってコントロールできれば、良い体調を保ったままがんになる以前の生活を続けることができるだけでなく、がんで亡くなるのではなく寿命を全うすることもできるからです。

 

【写真】上手く長期にわたってコントロールできれば、寿命を全うすることもできる上手く長期にわたってコントロールできれば、寿命を全うすることもできる photo by gettyimages

 

重要なのは「薬の順番」と「切り替えのタイミング」

このときに重要なことが、どのような薬をどのような順番で使うかと、一つの薬をどれだけ長い期間使い続けられるかといった薬の使い方の戦略です。

 

標準治療に基づきながらも、患者さんに合わせてどのタイミングでどの薬に切り替えるかは、医師の判断に委ねられ、がん専門医はこうした判断をするための訓練を積んでいます。

 

では、具体的にどのように治療は進められていくのでしょうか。

切除のできない進行/再発のがんに対する薬物療法は、最初に行う一次治療、その薬が効かなくなった場合や、治療を続けるのが困難な副作用が現れた場合に行う二次治療、三次治療と治療を切り替えて続けられます。

 

また、新しく開発された薬であってもそのがんにとってベストの薬でないことがあるため、既存の薬の臨床成績と比較したり、その患者のがんの種類、性質、体質、体力を鑑みて、薬の選択や組み合わせを決めたりして治療を進めます。

作用機序の異なる薬がいろいろあって治療選択の幅が広いことは、こうした多様な治療を支えています。

 

 

薬の効果はどうやって判定するか

また、病理のみによって悪性度を判断して治療戦略を立てていた頃から比べたら、遺伝子を調べて再発リスクや治療効果を予測できるようになった現代医学は格段に適切な医療を提供できるようになっています。

効かない薬をむやみに使い続けたり、逆に効いている薬を止めてしまったりすることがないように、治療効果をきちんと判定することも重要です。

 

薬物療法の効果は、次のような評価(RECIST)によって判定します。

まず、評価のために、サイズを測定し追跡するがん(標的病変)を決めます。

標的病変は1臓器につき最大2個、全身で5個まで決めることができます。

それ以外のがんはサイズを測定しない非標的病変となります。

 

治療効果の判定には、標的病変の径の和が用いられます。

すべての病変が消えた状態を完全寛解(完全奏効、CR:Complete Response)といいます。

標的病変の長い径の和が測定開始時に比べ70%以下になり4週以上維持されれば部分寛解(部分奏効、PR:Partial Response)したとされます。

完全寛解か部分寛解で、薬物療法は「効いた」と判断されます。

 

標的病変の長径和がマイナス30%からプラス20%以内の変動であれば、安定(SD/NC:Stable Disease/No Change)ですが、6ヵ月以上この状態が続けば、治療は有効と判断することがあります。

 

標的病変の長径和がプラス20%以上または非標的病変の悪化、新病変の出現が見られたら、進行(PD:Progressive Disease)と判断します。

薬物療法では、病勢の増悪や重い副作用がない限り、現状の治療を継続するのが基本です。

 

【写真】治療効果をきちんと判定することも重要だ治療効果をきちんと判定することも重要だ photo by gettyimages

 

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患者に合わせて、どのタイミングでどの薬に切り替えるか、がん専門医の適切な判断が重要となる。

さて、がん治療では、分子標的薬のほか、本来持っている免疫の活性化を図り、がんに対抗する治療「免疫療法」が広く行われるようになっている。回を改め、このがんの「免疫療法」についても解説をお届けしたい。