自動車事故の際、自身や同乗者の身を守れるか。あるいは自分がぶつけてしまった時、被害者を守ることができるのか──。
そうした車の安全性能を検証した「公的な実験データ」が存在する。
車を選ぶ際の重要な指標となる調査結果を実名で公開する。【前後編の前編】
ユーザーの興味も燃費より安全性能に
警察庁によると、今年上半期、75歳以上の運転者による死亡事故は161件で、うち「ブレーキとアクセルの踏み間違い」によるものは23件(14.3%)。
前年同期比で約3倍に増加した。
最近でも鹿児島市で80代の女性ドライバーが交差点を右折時にペダルを踏み間違え、横断歩道や歩道の男女4人をはねる死傷事故(11月11日)が起きるなど、操作ミスによる事故は後を絶たない。
自動車業界に詳しい経済ジャーナリストの福田俊之氏が言う。
「かつてはユーザーの興味もメーカー側の売りも、燃費などの環境性能に傾いていました。
それが、2019年の池袋暴走事故以降は風向きが変わり、近年はドライバーの誤操作や判断ミスをカバーする『安全性能』に大きな注目が集まっています」
一般ユーザーにとって、各車の安全性能を比較するのは難しいが、その手がかりとなる重要なデータが存在する。
国土交通省と同省所管の独立行政法人NASVA(自動車事故対策機構)が実施する「自動車安全性能評価」だ。
「複数メーカーの車を同一条件で公平に試験・評価した唯一のデータです」(福田氏)
各年度の国内新車販売台数上位の車を対象にした検査で、NASVA自動車アセスメント部によると「(新車販売台数の)約8割の車種をカバー」しているという。
「衝突しそうな場合の警報や自動ブレーキなどの運転支援に関わる『予防安全性能』、事故時に乗員や歩行者を守る『衝突安全性能』などについて量産車を使い、各方向から衝突させる試験などを実施しています」(同前)
試験結果は点数化され、その合計得点により「予防安全性能」「衝突安全性能」それぞれについてA~Eの5段階にランク分けされる。
「新車の性能に合わせ毎年試験項目を変えており、調査年度により満点の数字が変わります」(同前)
予防安全性能、衝突安全性能の2つがともにAランクで事故自動緊急通報装置を備えている場合、「★」の数で示す総合評価は五つ星となり、最高点を獲得した車種には「ファイブスター大賞」が与えられる。
2023年度は「クロストレック/インプレッサ」が大賞
別掲の表は、2020~2023年度の結果について、調査年度ごとに総合評価の高い順に掲載したものだ(計52車種)。
今回まとめたランキングではSUBARUが4年間で3車種の「ファイブスター大賞」を獲得した。
自動車ライターの萩原文博氏が語る。
「2020年度のレヴォーグと2021年度のレガシィアウトバックに搭載された最新の『アイサイトX』は、一定条件下でハンズフリー走行も可能。2023年度のクロストレック/インプレッサに搭載の『新世代アイサイト』は3つのカメラで歩行者などをより的確に認識し、衝突安全ブレーキの作動領域が広がりました」
「2022年はトヨタの定番車が生まれ変わった年です。
『TNGAプラットフォーム』採用で車体の剛性を高め、運転支援システム『トヨタセーフティセンス』を進化させたことで、3位のシエンタを含めて衝突安全も予防安全も点数が急上昇したとの見方ができます」(萩原氏)
両社はNASVAの評価をどう受け止めるのか。
「リアルワールドで事故が起きるシチュエーションにおいて、事故回避、被害軽減をするための開発を続けてきており、その積み重ねが結果的に安全性能評価試験での高い評価に繋がっていると考えています」(株式会社SUBARU広報部)
「公的な唯一の自動車の安全性能評価であると認識しており、評価いただいた結果は車種のホームページなどに掲載し、お客様に安全性能を周知するために活用しています」(トヨタ自動車株式会社広報部)
日産、ホンダ、三菱のコメント
日産は2020年度にデイズ、2021年度にルークス、2022年度にサクラがトップ5に。
「デイズの2020年度モデルは衝突回避ブレーキ、踏み間違い防止機能に加え、2台前の車両の急減速を検知する『インテリジェントFCW』を搭載しました。
これはスカイラインに初実装された高級車向けの機能です」(萩原氏)
ホンダは2020年度にフィット、2021年度にヴェゼル、2022年度にステップワゴン、2023年度にZR-Vがトップ5入り。三菱は2021年度にアウトランダーPHEVがトップ5に入った。
この結果について各社に聞いた。
「より安全な自動車を開発するための一つの指標と考えています。
獲得した『自動車安全性能ファイブスター賞』は、ホームページやカタログ、TVCW、ギャラリーでの展示等において、第三者による公平な評価結果として活用し、その安全性能の高さをお客様にお伝えする方法の一つとしています」(日産自動車株式会社グローバルコミュニケーションオフィス)
「あらゆるシーンでの安全を評価いただくことで、自動車業界全体の安全に対する意識を保つうえで重要と考えております。安全なクルマをお客様に提供するために、結果を受け止めて、さらなる研究を重ねていきたいと考えています」(本田技研工業株式会社広報部)
「NASVAによる安全性アセスメントは、国土交通省と一体となり行なわれている信頼性の高い安全性評価と認識しており、当社もその評価を重視しております。
当社は、交通事故以外の事故も含めた自動車が関わる全ての『事故ゼロのクルマ社会の実現』を製品開発における安全理念のビジョンとしており、事故低減技術の開発・実用化に役立てております」(三菱自動車工業株式会社広報部)
※週刊ポスト2024年12月6・13日号