アメリカの大統領選挙はトランプが当選しホワイトハウスに復帰することになった。
さまざまな状況が、世界は今後より混沌とし、米国と中国の関係はさらに緊張の度を増し、それがアジア全体に影響を及ぼすであろうことを示している。
米中関係はアジア情勢の主軸であり、中国の動き方はアジア太平洋関係の延長線上にあり無視できないところである。
そこで本稿では、米中関係とアジア情勢に焦点を当てたい。
by Gettyimages
テーブルの上でも下でも闘争続ける米中
トランプの当選後、中国の反応は非常に慎重なものだった。習近平は祝辞の中で、「協力すれば双方が利益を得られるが、対立すれば双方が損失を被る」とあらためて述べた。
しかし、目前のさまざまな要素は、中国と米国には相互信頼の基盤がないばかりか、協力に対する誠意もないことを示している。
双方はテーブルを挟み、その上でも下でも闘争を続けざるを得ない状況に追い込まれていると言えよう。
まず確認すべきは、米中対立は2018年にトランプによって始められたということだろう。
この年、彼はまず関税戦争を仕掛け、その後、貿易戦争、経済戦争へと拡大し、バイデン時代には科学技術戦争、制裁戦、外交包囲網が始まり、軍事同盟強化の競争へと徐々に激化していった。
これは現代の国際政治における(武力以外の)「超限戰」、つまりあらゆる限界を超えた戦争である。
トランプは第1期政権の半ばで対中経済戦争を発動し、その後続投に失敗し退陣したが、再選された今、彼が言う「アメリカを再び偉大にする」ことを実現するために、中国への圧力をさらに強化することが予見される。
トランプ第1期退陣後も「超限戦」は拡大した
次に、トランプの退陣(2021年)によって「超限戦」が停戦となったり減速したりしたわけではないということがある。
中国と米国の国力の差が徐々に縮まったことが米国の懸念を招くのは必至であり、バイデンの就任後も「超限戦」の範囲は拡大した。
今日、中国と米国は、互いの組織や人員に対する制裁の範囲を拡大しただけでなく(強制的に相互の領事館を閉鎖するなど)、それぞれが国際的な同盟関係も発展させた(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの「ファイブ・アイズ」など)。
米国の戦略的思考は、米国の「一つの大国」の地位を維持するためには中国の台頭を抑えなければならないというものである。これが今後の米中闘争を支配し、牽引することになるだろう。
さらに、共和党はすでに上下両院を掌握して大きな影響力を持ち、トランプの強硬な対中政策はよりスムーズに進められることとなる。加えて、米国経済も多くの問題(貿易赤字の拡大や国際貿易における米ドルの地位の不安化など)を抱えており、その危機を外部に転嫁し続けることになれば、必然的にあちこちに当たり散らすことになり、中国がその最初の選択肢となるだろう。
また、中国の影響力(例えば、中国の電気自動車などの製品、その他の貿易黒字が西側諸国の経済に影響を与えている)に対抗するためには、EUと西側諸国も米国と一丸となって対応する必要があることにも留意すべきだろう。
最近、イギリス、ドイツ、フランスなどの軍艦が台湾海峡を意図的に通過していることからもそれがわかるだろう。
国内経済の失策と衰退が中国を劣勢に立たせている
中国はしばしば、「米国を筆頭とする西側陣営が中国を貶め圧力をかけるから様々な紛争が起きるのだ」と言う。
実際には、中国の多くの内部対立と不均衡がより大きな原因であり、西側諸国がその状況を利用しているだけである。
まず、近年の中国の経済政策は、国内経済の停滞、あるいは衰退を招いていることが挙げられる。例えば、「国進民退」(国有企業が民営企業より優遇されてシェアを高める)がある。
政府は国有企業を保護し、市場を拡大・コントロールするだけでなく、大手民間企業を標的にし、罰則を加え、その市場の発展を制限している(「有力な民間企業のオーナーを標的とする」こと。ジャック・マーが典型例)。
当局は、民間企業が「資金が豊富で鼻息が荒く」、「国家に匹敵する」ことになりやしないかと懸念しており、これが民間の中小企業に対してまでも厳しい政策(融資のハードルを上げるなど)につながっている。
この数年、民間経済が半死状態になってようやく政策が若干緩和された。
国のこうした経済政策は国民の暮らしを急激に悪化させ、暮らしを守るために国民はもはや政府の政策を信頼せず、従わなくなり、出生数の増加を促す政策にも応じなくなっている。
また、不動産市場を活性化させるための不動産購入制限緩和政策によっても明らかな改善は見られていない(以前、全国各地で野放図にマンションが建設されたため、需給バランスが崩れ、住む人のいない「ゴーストタウン」が数多く出現し、現在に至っている)。
外資が中国から逃亡することの意味
また、政府は内需を刺激するために消費を奨励しているが、国民は(政府が約束した社会保障は引き締められ、国民の公的積立金も凍結され受け取りが困難になるなどして)、むやみやたらに消費しようとはせず、逆に国民の貯蓄率の上昇をもたらしている。
2020年、コロナ禍が本格化する前は40%だったのが、去年は50%近くに上昇している。
最近のこととしては、中国は今年年初から「辛さを抑える」(多くの政策を緩和する)ことに着手し、年央には経済再生のための「コンビネーション・パンチ」(包括的な市場救済戦略)も打ち出した。
しかし、最近公表された今年第1~第3四半期のGDPを見ると、31省・市のうち24が目標を達成できておらず、GDP総額で国内トップの広東省でも3.4%アップにとどまった。
中国は長年、経済の柱として海外投資と対外貿易に依存してきたが、近年はその双方とも自ら招いた理由で困難に直面している。
例えば銀行は中小企業へのローンを出し渋って市場は萎み、輸出利益が減少し、内需不足で倒産の波が起こっている。中国経済のファンダメンタルズの変化により、外国投資家が利益を得る機会は大幅に減少しており、加えて近年、中国の国家安全に対する意識は際限なく拡大しており、本来であれば国家間でそれほど問題にならないような国家安全のための措置が、外国からの投資を妨げるネックとなり、外国企業の大幅な撤退をもたらしている。
トランプの当選後、コーヒーマシンで知られるオーストラリアの有名な家電企業のブレビルなど、まだ様子見していた一部の外国企業は即座に撤退を決めた。
ここに込められたメッセージは、中国と米国の対立が激化し、米国が中国製品に追加関税を課すことが中国に投資した企業にも直接影響するだろうと各投資企業が予想しているということだ。
こうした様々な状況はすべて、中国の米国に対する反撃能力を弱めることを示していよう。
翻訳・ 大久保 健
アメリカの圧力に、ますます劣勢になる中国。
このことは近隣の東アジア諸国に何をもたらすか。後編「中国企業すら逃げる~いま急速に進んでいる中国から香港・東京・シンガポールへの『資本流出』のワケ」で検討してみる。