ドナルド・トランプが4年ぶりにアメリカ大統領に返り咲いた。とんでもないデマ発言を繰り返して国内を分断し、「悪夢の大統領」とまで言われた。しかし、彼は戻ってきた。いったいなぜなのか。
「内戦」を懸念していたジャーナリストたち
「USA!USA!」
ドナルド・トランプが姿を現すと、会場は異様な熱気に包まれた。
「アメリカ国民の皆さま、私を第47代大統領に選んでいただき、この上ない栄誉に感謝します。これからが真のアメリカの黄金時代でしょう」
現地時間11月6日未明、大統領選投開票日の深夜にトランプは早々に勝利宣言をした。
カマラ・ハリスの支持者たちは一様に肩を落としたが、全米各地で選挙を取材していた記者たちは、揃ってこう安堵したという。
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ひとまずアメリカ国内が分断されることは免れた―。
米ハーバード大学客員研究員でフリージャーナリストの中岡望氏が語る。
「マーケティング・リサーチ会社の世論調査で『選挙が終わった後にアメリカで政治的な暴力が起こりうるか』という問いに対して、7割近くの人が『起こる可能性がある』と回答しました。
それほどアメリカ国民は暴動を心配していたのです」
前回の大統領選('20年)では、トランプが「選挙結果が不正に操作された」と主張して敗北を認めなかったため、支持者の一部が暴徒化し、連邦議会を襲撃した。ハリスが勝てば、その悪夢が再来しかねなかったのだ。
「今回、トランプは負ければ裁判での有罪判決を受けて投獄される可能性が高かった。
そのため選挙結果を覆すためなら、なんでもやりかねない雰囲気でした。軍内部のトランプ派が動いているという噂もあった」(同前)
トランプ支持者が本気で選挙結果を覆そうと実力行使に打って出れば、「シビルウォー」(内戦)にも発展しかねなかった。しかし、そうした事態は回避できたわけだ。
エリートから支持されたハリスの惨敗
ではなぜ今回トランプは勝利できたのか。ハリスが大統領候補に選ばれた直後には、「ハリスブーム」が巻き起こり、一時は圧勝すると言われていた。
しかし、蓋を開ければ、トランプが逆転した。
「ハリスが敗北したのは、バイデンとの差別化ができなかったからです。政策を見ていただくと、実に3分の2ほどがバイデン政権のものを踏襲しています」(同前)
バイデン政権下で進むインフレで、多くの国民の生活は困窮した。
特に深刻なのが、白人労働者たちだ。窮地に立たされた彼らが頼ったのがトランプだった。
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「労働組合を組織する白人労働者はもともと民主党支持層でした。ところがグローバル化の影響で工場が海外に流出し、働く場所がなくなってしまった。
ワシントンのエリートたちはそんな白人労働者たちを気にも留めなかった。
そうした『忘れられた人々』の気持ちをトランプはすくい取ったのです。
『私はあなたたちの味方です。海外から工場を取り戻して、再びアメリカを偉大な国にします(Make America Great Again)』と。
一方、ハリスは世界中から優秀な人材が集まる都市部のエリートから支持されましたが、トランプに及ばなかった」(同前)
真っ二つに割れた有権者たち。まさにアメリカの格差社会を象徴するような選挙戦となった。
まるでカルト集団
とはいえ、今回の大統領選が接戦であったことには変わりない。「移民たちはペットの犬や猫を盗んで食べている」などと、荒唐無稽なデマを振りまくトランプに比べれば、ハリスのほうがマシだと考える有権者は多かった。
そこでトランプ勝利の鍵を握ったのが、熱狂的なトランプ支持者だった。元共同通信記者でニューヨークを拠点に取材を続けるジャーナリストの津山恵子氏が語る。
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「私はトランプ氏の選挙集会に何度か足を運びましたが、トランプ氏が『カマラ・ハリスはIQがゼロだ』『スロー(動きが遅い)ジョー・バイデン』などと悪口を言うと、支持者たちは膝を叩いて喜んだり、隣の人と肩を抱き合って笑い合ったりしていました。まるでカルト集団です」
日本では、こうしたトランプ支持者は「過激派」や「トンデモ」と報じられることも多い。
しかし、こうした「トランプの下僕たち」は、この4年間でバカにできない数に膨れ上がっていた。
その結果、下馬評に反してトランプが勝利を掴んだのだ。
彼らは一体何を考え、なぜトランプに投票したのか。その実態に迫ろう。
「週刊現代」2024年11月16日・11月23日合併号より