患者や病院に大きな混乱が生じると懸念されているにもかかわらず、政府は紙の保険証からマイナ保険証への移行を急ピッチで進めている。
その背後を取材していくと、巨額の予算が流れ込む団体への天下り、そして競争入札もないまま受注する企業群の存在に突き当たった──。
前回記事で指摘した通り、マイナ事業の中核を担うのが、国と自治体が出資する公的法人の「地方公共団体情報システム機構」だ。
住民基本台帳ネットワークを運営する総務省の天下り団体「地方自治情報センター」が改組されて2014年に発足し、マイナンバー制度のシステム開発や運用を一手に手がけている。
そして、マイナンバー制度の中核システムを受注したのは、NTTの長距離通信やプロバイダ事業を行なうNTTコミュニケーションズを中心に、NTTデータ、日立製作所、NEC、富士通の5社の連合だった。
それぞれ「官民癒着」の批判にどう答えるか──。【全3回の第3回】
「関心がないので」
官民癒着という面で見落とせないのは、マイナ事業の中核を担う公的法人の「地方公共団体情報システム機構」の理事の顔触れだ。
総務省からの天下り官僚2人の他に、NTT出身の理事と日立製作所出身の大学教授が非常勤理事として役員に名を連ねている。一方のNTTコミュニケーションズには元総務官僚が監査役として天下っていた。
これでは公正な競争をもとに事業が進められているのか、大きな疑念が生じる。
金融ジャーナリストの小泉深氏の視線は厳しい。
「天下りの役人にはシステムとか技術的なことはわからない。
ITベンダーは受注額を増やしたいから、システム構築にあたってこんな仕様を追加したほうがいいとか、費用が生じる提案をどんどんしてくる。
国からの補助金がつく天下り法人の役員なら、コストが大きくなった末の赤字で経営責任も問われない。
言われるままに必要なら仕方がないと、どんどん費用が増えていく構図がある。
本当なら技術系の役員がそれをチェックしなければならないはずだが、その理事に受注企業出身者がいるわけです」
当人たちはそうした批判にどう答えるのか。
本誌・週刊ポストは総務省OBの菅原泰治・副理事長とNTT出身の樋口浩司・理事を直撃した。
「私は(取材に)関心がないので、結構です」(菅原氏)
「個人で私がお話しできるものではありません」(樋口氏)
同機構はこう回答した。
「調達手続については、会計規程等に基づき適正に行なっており、癒着や便宜供与が生じることはない」(情報化支援戦略部)
総務省、デジタル庁に事業費などについて聞くと、総務省はマイナ事業費が膨れ上がったことには回答せず、“癒着問題”については「機構の理事長が理事を任命しており、機構に聞いて下さい」(地域情報化企画室)。
デジタル庁の広報担当は、「適正に調達手続を行なった結果として、5者のコンソーシアムが落札したものと承知しております」との回答だった。
5社連合の各社に入札の経緯などに関して聞くと、こう答えた。
「適切な入札が行なわれたと理解している。
(機構理事の)樋口氏は当社社員でしたが退職済みであり回答する立場にない」(NTTコミュニケーションズ広報室)
「競合が存在することを想定して応札している」(NTTデータ広報部)
「個別の入札に関しての回答は控えさせていただく。
(同社出身の手塚氏が機構の理事に就いていることについて)お答えする立場にない」(日立製作所コーポレート広報部)
「システムの一部を当社が担っていることは事実だが、それ以外のことはコメントできない」(NECコーポレートコミュニケーション部)
富士通からは、期限までに回答がなかった。機構から受注した総事業費については、各社「回答を差し控える」とのことだった。
本当に、紙の保険証廃止をゴリ押しするだけの理由があるのか。国民が納得できる答えは、示されていない。本誌・週刊ポストは引き続きこの利権を追及していく。
※週刊ポスト2024年11月29日号