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パチンコホールはなぜキャッシュレス化できないのか?立ちはだかる難題の数々 依存症対策と逆行、違法な現金化への懸念…かつてのプリペイド方式が頓挫した経緯も

まだまだ“現金派”のパチンコ・パチスロ業界(イメージ)

まだまだ“現金派”のパチンコ・パチスロ業界(イメージ)

 キャッシュレス決済が広く普及し、現金を持ち歩かなくても買い物ができる世の中になったが、そうしたなかでパチンコ・パチスロは、いまだに電子マネーすら使うことができない。

業界内では、以前からキャッシュレス決済の導入に関する議論が起きているが、実現のためにクリアすべきハードルはあまりにも高いという。

いったい何が問題なのか。【前後編の前編】

 

現在のパチンコホールでは、台と台の間にある“サンド”と呼ばれる玉貸機に紙幣を入れて、パチンコ玉やパチスロのメダルを借りて遊技する形になっている。

 

デビットカードを使って遊技するシステムを導入している一部の店舗もあるが、クレジットカードに紐づいた電子マネーQRコード決済などのキャッシュレス決済は一切使えず、“現金での遊技”が基本だ。

 

 近年、深刻なユーザー離れに陥っているパチンコ・パチスロ業界。だからこそ新規ユーザーの開拓は、業界にとって大きなテーマとなっている。そのためキャッシュレス決済を導入し、現金を持ち歩かない人々を呼び込むことが、業界回復の糸口になるのではないかとの意見も多い。

 

 しかし、現時点ではパチンコホールにおけるキャッシュレス決済導入の可能性は低いと見られている。その理由について、パチンコ業界に詳しいジャーナリストの藤井夏樹氏がこう話す。

 

「まず、ギャンブル依存症の問題があります。たとえば、クレジットカードを用いたキャッシュレス決済なら、使ったお金は“後払い”になります。実質的な借金をしながら遊技できる状況を作り出す結果となり、のめり込み防止とは逆行してしまう。

 

業界全体で依存症対策に取り組まなければならないことを考えると、簡単にキャッシュレス決済の導入はできない。管轄指導する警察庁も同様に考えています」

 

 

紙幣を投入する場所「サンド」はパチンコだと左側、パチスロでは右側にある

紙幣を投入する場所「サンド」はパチンコだと左側、パチスロでは右側にある

実質的な「クレカの現金化」が可能になってしまう

 また、キャッシュレス決済の導入への障壁となっているのが、パチンコにおける“換金”だ。

 パチンコ・パチスロでは、いわゆる“三店方式”と呼ばれる形で、実質的な出玉の換金が可能となっている。現状では、客が出玉を交換して得た特殊景品をホール近辺にある“古物商”である景品交換所で買い取ってもらうことで、現金を得ることができる。

 

景品交換所が買い取った特殊景品は、第三者である卸売業者を介して、再びホールへ戻っていく。この構図において、ホール、景品交換所、卸売業者が、それぞれ別の業者として関わることで、賭博にならない合法的な景品の流通ができるというのが、“三店方式”だ。

 

三店方式は合法的ではあるとはいえ、世間的にはグレーなものと見られています。キャッシュレス決済の事業者としては、そういったグレーと見られる構造のなかに組み込まれることへの抵抗もあるでしょう。

 

また、キャッシュレス決済で得た出玉を換金するというのは、事実上の“クレジットカードの現金化”にもつながります。

クレジットカードの利用規約に抵触する可能性もありますし、不正な形で利用されるかもしれないという点も問題視されています」(藤井氏、以下同)

設備投資によるホールへの大きな負担

 パチンコホールでのキャッシュレス化が進めば、非現金派のユーザーを呼び込めるかもしれないが、ホール側にはさまざまな負担がかかるという側面もある。

 

まず、ホールにおける設備投資の問題がある。現在使われている現金専用のサンドだけでなく、キャッシュレス決済に対応したサンドの導入が必要になる。

 

昨今、売上が減少して厳しい状況に追いやられるホールが多いなか、キャッシュレス化のための新たな設備投資ができない店も少なくないはずだ。

 

さらに、設備投資がキャッシュレス化で増える売上に見合うものかどうかを考えた末に、導入見送りを選択するホールも出てくるのではないか。

 

 また、クレジットカードで決済した場合、毎回手数料がかかることとなるが、それを負担するのもホールとなる。

その手数料がホールの経営を圧迫するであろうことは想像にたやすく、そのしわ寄せが“出玉の削減”という形でユーザーに転嫁される可能性もある。

 

キャッシュレス化によって、ユーザーが最も強く求める“出玉でのサービス”が損なわれるならば、逆にユーザー離れが進むことも考えられる。

 

 

メダルを使わないスマスロでは獲得枚数がデジタルで表示される。数千枚クラスの出玉も珍しくない

メダルを使わないスマスロでは獲得枚数がデジタルで表示される。数千枚クラスの出玉も珍しくない

思い出される偽造プリペイドカード問題

のめり込み対策という点では、パチンコホールにて1日で利用できるキャッシュレス決済の限度額を設けるというアイディアもある。

 

「仮にホールでキャッシュレス決済が使えるようになったら、限度額の設定は絶対に必要だと思います。

一部ホールで導入されているデビットカードでの支払いも、1日3万円までという限度額が設定されています。また、パチンコホール内に設置されているATMについては、1日3万円まで、月に8万円まで、1日2回までという利用制限があります。

 

少なくとも、こういった形での限度額設定がないと、依存症対策を無視することになるのは間違いないでしょう」

 

 また、電子マネーなどで購入できるプリペイドカードを導入するというアイディアもあるだろう。

「以前、多くのパチンコホールではプリペイドカードを導入していました。

 

店内にカードの販売機があり、そこで現金を使ってプリペイドカードを購入。そのカードをサンドに入れて遊技するという形でした。

 

電子マネーでなら1日○万円まで購入可能”という形で制限を設けて、そういったプリペイドカードを販売すれば、たしかにのめり込み対策もできるかもしれません。

 

 ただ、問題となるのはプリペイドカードの偽造です。

1990年代後半には、パチンコホールで使える偽造プリペイドカードが蔓延してしまい、ホールに大打撃を与え、結果的にプリペイドカードから現金遊技へと切り替わりました。

 

そういった問題が発生する可能性を考えると、現金よりもセキュリティに不安があるプリペイドカードを導入するハードルは高い。危なっかしいものに設備投資するほど、ホールも余裕がないでしょう」

 乗り越えるべき障壁が山ほどある、パチンコホールでのキャッシュレス化。ユーザー獲得のため、実現を求める業界の声もあるが、一方でユーザーはどう思っているのだろうか。

 

 

後編記事では、ユーザーの生の声に耳を傾ける。そこには期待と不安が交錯する“パチンコユーザーの本音”が垣間見えた。