8月2日に内閣府が発表した「経済財政白書」(令和6年度)で、老後資産についての本音が浮かび上がってきた。
同白書によると、遺産についての考え方調査(2023年)で、60歳以上で最も多かった回答は、「生きているうちに財産を使い切りたい」(34%)だった。
2014年発表の同統計では「使い切りたい」と答えた人の割合は26.5%。この10年で増加していることが分かる。
一方で、同白書はこんな数字も明らかにしている。
世帯当たりの金融資産の平均額は50代まで右肩上がりに増加し、60~64歳でピークの1838万円に達する。
だが、その後の資産取り崩しのペースは緩やかで、85歳以上の世帯でも平均1500万円の財産を残したままとなっている。
使い切って死にたいと願いながらも、お金を取り崩すことができない――この現実について、『60代からの資産「使い切り」法』(日経BP 日本経済新聞出版刊)著者でフィンウェル研究所代表の経済アナリスト・野尻哲史氏はこう話す。
「多くの人は老後生活に備えるあまり、お金を使うことをためらい、結果的に必要以上に資産を残してしまっている。しかも、巷の情報は『増やす&貯める』方法ばかりで、お金の使い方は誰も教えてくれません」
あの世にお金は持って行けない
政府も人生100年時代に備えた投資・貯蓄を推奨し、新NISAがスタート。4月にはiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入年齢を70歳未満に拡大する方針を発表し、「増やせ、貯めろ」のムードにますます拍車がかかっている。
「金融機関は老後の不安を煽り、資産防衛の必要性ばかり訴えてきます。しかし、投資も貯蓄も、“いつかお金を使う”ための手段でしかありません。
では、いつそのお金を使えばいいのか。これが分からないから、多くの人は死ぬまで貯蓄をしてしまうのです。
私が独自に計算したところ、日本人の個人資産総額約3200兆円のうち、2000兆円ほどを60歳以上が保有しており、これが消費に回らない。いくらお金を貯めてもあの世にお金を持って行くことはできません。
重要なのは、漫然とした投資や貯蓄をいつまでも続けることではなく、“正しくお金を取り崩す計画”を立てることです」(野尻氏)
貯めるよりも、使うことのほうが難しい老後資産。これを効果的に取り崩すためには、「寿命からの逆算が必要」と野尻氏は指摘する。
「何も考えずに散財すれば老後資金がショートするリスクがあります。
超高齢社会の現代では、100歳まで生きると想定して長期的な計画を立て、収入と支出のバランスを整えて資産寿命をコントロールしていくことが重要。
そうすることでその後の人生の安心につながり、過剰な貯蓄をせずとも豊かな老後を送ることができます」
※週刊ポスト2024年9月13日号