人口減少日本を象徴する社会問題として、地方の「空き家」の増加が注目されて久しいが、建物の老朽化と居住者の高齢化という「2つの老い」が進む都市部のマンションでも「空き家」が増えている。
マンションの空き家は、一戸建てと比べて近隣住民に影響を及ぼしやすく、問題はより深刻だとも言える。果たして、解決策はあるのか?
人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。
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総務省の住宅・土地統計調査(2023年10月時点)の速報集計によれば、空き家総数899万5200戸のうち44.9%にあたる403万6800戸がマンションを意味する「非木造共同住宅」だ。
その77%である310万8800戸では賃貸用マンション物件が空き家となっているのである。
国交省の調査によれば、1979年以前に建てられたマンションの68.8%に空き家が存在する。
完成時期の古いマンションほど賃貸や連絡先不明の空き家になっている割合も大きい。
マンションの空き家は、一戸建てと比べて近隣住民に影響を及ぼしやすい。
高齢者が孤独死し、相続した所有者が不明となるケースは少なくないが、積立金などを実質的に徴収できなくなると、住み続けている人にさらなる負担増という「しわ寄せ」が行く。
しかも、空き家率が20%になると管理組合の日常的な対応が困難になるとの試算がある。役員を引き受けない理由のトップは「高齢のため」(36%)であり、高齢居住者が多いマンションでは管理組合の運営そのものが難しくなってきている。
こうして管理費や修繕積立金の支払いが滞ることになれば資金計画に大きな狂いが生じる。予定通りのメンテナンスができなくなれば、資産価値も下がる。
設備の維持管理に支障をきたすとマンションの劣化は想定以上に進む。外壁の剝離などによって思わぬ事故やトラブルが発生することも懸念される。
このような状態になった物件では引っ越す人も増えるだろう。
さらなる空き家の増加を招き、自力での再生が困難になる負のスパイラルへと陥っていく。
建て替えや大規模修繕が行われないマンションの増加は街の景観の悪化ももたらす。
老朽化したマンションは東京や大阪といった大都市圏に集中しているが、老朽化したマンションが目立つようになれば「日本の衰退」を印象づけることになるだろう。
再開発計画の遅れや見直しを招き、「地域の活力」というより「日本全体の活力」の低下が懸念される。
「住宅弱者」の高齢者をどうしていくか
政府は対策として、老朽マンションの再生を推進すべく区分所有法を改正し、建て替えや取り壊しに必要な所有者の同意割合の緩和を図るが、高齢居住者が多いところではこうした手法の効果は限定的だとみられる。
一方、老朽化したマンションを建て直すことになればなったで、別の問題も起きる。大規模な“高齢住宅難民”を生み出すきっかけとなりかねない。
内閣府の「高齢社会対策総合調査」(2023年度)によれば、高齢者の居住形態は民間の賃貸マンションやアパートが5.9%、公営などの賃貸住宅が4.5%で、約1割が賃貸の共同住宅に住んでいる。
建て替え期間中は分譲マンションの所有者であっても、いったんは別の住宅に移り住まなければならなくなる。
マンションを借りて住んでいる人の中には、建て替え後に家賃が大きく上昇して借り続けられなくなる人も出てこよう。
しかしながら、賃貸の場合には高齢者の入居を拒否する物件が少なくなく、高齢者の住宅探しは難航が予想される。国交省によれば、賃貸人(大家)の66%が拒否感を抱いている。
他の入居者とのトラブルや、家賃の滞納、居室内で孤独死し“事故物件”となることなどへの不安があるためだ。
「高齢社会対策総合調査」(2023年度)は65歳以降に入居を断られた経験のある人について調べているが、離婚して単身となっている人や世帯収入が120万円未満の人の割合が高い。
高齢であるだけでなく、万一のときの身元引受人がいなかったり、家賃の連帯保証人が見つからなかったりということなどが理由だ。
老朽化したマンションはいずれ建て替えなければならない。
「厳しい選択」に頭を抱え先送りしているうちに、そこに住む人々の暮らしぶりや家族構成は変化を続けていくということである。
今後は1人暮らしだけでなく、高齢者夫婦のみという世帯も増えていく。
人口減少社会においては、空き家の増大やマンションの老朽化といったひとつひとつの課題への対応だけでなく、「住宅弱者」である高齢者の住まいをどうしていくのかという視点を持って根本的な対策を考えなければならない。