地方で放置されている格安の空き家を購入して、見違えるようにオシャレな住宅にリノベーションする──そんなテレビ番組が人気になっている。
リフォームやリノベで古い住宅を再利用するのは、空き家対策になるだけでなく、地球環境に優しく、地方活性化にもつながるように思える。
だが実際は、新たな課題を生む結果になりかねないとしたら──。
人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。
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増加し続ける空き家に対して「活用しないのはもったいない」との声が小さくない。
政府は2023年の法改正で、倒壊の恐れがあるものや衛生上有害な「特定空き家」の前段階にある空き家を「管理不全空き家」と位置付け、固定資産税の軽減特例の除外対象に加えることとした。
さらに、2024年4月からは不動産の相続登記を義務化した。空き家の所有者が不明となって管理が行き届かなくなることを避けるのが目的だ。
民間では、空き家活用への取り組みが広がっている。大都市の郊外などでは、築年数の経った空き家を買い取り、リフォームして貸し出すビジネスも見られる。
人口減少に悩む自治体の中には、移住促進策の一環としてリフォームした空き家を移住者に安く貸し出す事業を行っているところも少なくない。
こうした取り組みをすべて否定するつもりはないが、「一時しのぎの策」でしかない。これでは、空き家問題の根本解決とはならない。
理由は日本の人口減少が激しすぎるためだ。空き家が誕生するペースが速すぎて、空き家の一部を活用したところで焼け石に水ということである。
リフォームを施して一時的に「住む人」が現れたとしても、ずっと誰かが住み続ける保証はない。
住宅総数と人口減少による需給バランスの崩れを考えれば、再び空き家に戻る可能性のほうが大きい。
それどころか、過疎地域の空き家をリフォームして貸し出したり、安く売却したりすることは、人口減少社会においては新たな課題を生むことにもなる。
まず取り組むべきは「家の建てすぎ」をやめること
人口減少下で地方の社会機能を維持するには、商店などが立地し得る程度の商圏規模の確保が必要である。
そのためには住民の集住が不可欠だが、過疎地域の空き家を移住促進策のツールとして活用することはこれに逆行する。
行政自らが“ポツンと5軒家”を作り上げ、過疎地域を広げるようなものであり、こうした居住地の分散政策を続ければ、行政サービスの提供コストは膨らむ。
いずれ地方財政にかなりの重荷となって跳ね返ってくる。空き家の「住宅」としての再生は命取りとなりかねないのである。
それより、今後まず取り組むべきは、空き家を必要以上に生み出さないよう家の建てすぎをやめることだ。税制をはじめ供給過剰の解消を促す仕組みづくりが急がれる。
そうは言っても、人口減少に伴って空き家は必然的に増えるので、同時に、新たな「住宅」として作り直すものと、別用途の土地活用に向けて壊すものとに分けることである。
人口減少社会とは、「住民」となる国民の数が減っていくということだ。使われなくなった住宅をすべて「住宅」として再生するのは無理がある。
今後の街づくりは、人口が減ることを前提として、どう社会機能を維持させるかという視点が不可欠となる。その中で増える空き家をどう位置付けるのか──。
日本の住宅政策は大きな曲がり角を迎えている。
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。