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「インターホンを鳴らしたら他人が出た!」と74歳の住人が大騒ぎ...32階建て高級タワマンが抱える「高齢化問題」のヤバすぎる実態

 

高齢化という落とし穴

 

バブル経済を背景に、次々に登場した高層マンション。「新しい生活スタイル」に飛びついた住人たちは年齢を重ね、「老い」に直面する世代に入っている。伝統あるタワマンでいま、何が起きているのか。「コンシェルジュ」の証言をもとに見ていこう。

 

大手航空会社で新人CAの指導教官をしていた亜矢さん(45歳)は、コロナ流行期の航空会社の経済危機で転職を決めた。頼ったのは先輩OBたちが起業していた「接客マナー講習&研修」を請負う会社で、有名タワマンのコンシェルジュとして派遣されることになった。

 

PHOTO:iStock

 

派遣先は、建築当時メディアでも華やかに取り上げられた「32階建で280戸のランドマーク的なタワマン」。バブル期の勢いで建築され、28年経った現在でもヴィンテージ・プレミアムの価値を失っていない。

長年のノウハウが構築されたホテルライクなフロントサービスと、24時間有人管理体制が好評である。

 

しかし、このタワマンでは入居者の高齢化によるトラブルが続出していたのだ。

驚きの「出勤騒動」

 

たとえば2億3千万円の2L D K角部屋で紳士然として暮らしている某大企業元会長の佐々木太郎氏(82歳・仮名)は「出勤騒動」の常連である。午前の遅い時間に起床すると「寝坊した!」と狼狽。妻の制止も聞かず、背広を乱雑に着てスリッパのままアタフタとエレベーターに飛び乗ってしまう。

 

ロビーでは血相を変えてカウンターに突進して、バンバン机を叩いて怒鳴る。

「キミ、会社からの迎えの車はまだかね?秘書の山田はどこだ?会議に遅れてしまう」

出勤初日にこの騒動に出くわした亜矢さん、さすが元大手航空会社の「チーフパーサー」である。

顔色ひとつ変えずにこやかに両手を前で組むお辞儀をしながら「おはようございます、佐々木様。車は遅れていると秘書の方から連絡をいただいております。こちらのソファで少しお待ちくださいませ」と案内をした。

 

さらに「会長、お履物は布製より革靴の方が会議にふさわしいと存じます。車は待たせておきますので、ご自宅にお戻りになって履き替えられてはいかがでしょうか」とさりげなくエレベーターへ誘導して送り返す。本人が玄関ドアを開ける頃には、何のためにロビーに行ったかをもう忘れているそうである。

 

認知症タワーマンション

内閣府によれば65歳以上の認知症患者数は2020年で約602万人、2025年には675万人と、5.4人に1人が発症するという。このヴィンテージ・タワマンで半数の世帯が高齢者層だとすると、30~40人は認知症の人がいると予想される。

 

だが、各戸の扉は固く閉じられて、家族が隠しているのが現状だ。

亜矢さんの職場には次のような「高齢者とのコミュニケーション・マニュアル」があるという。

 

・認知の問題がある方の行動を力ずくで制止したり、頭ごなしに否定しないこと。

・居住者様のアイデンティティを全面肯定して不安を取り除いて差し上げること。

・ご自分の功績や実績を誇大化したり、虚飾していてもそのまま受け止めて褒め称え、誇りや自尊心を損なわないこと。

 

・高齢であるほど、現役時代に大事な存在であったことを繰り返し伝えること。

・嘆きや愚痴は否定せずに最後まで聞いて、「よく頑張られましたね」と慰労すること。

タワマンの本当の値打ちは見せかけの共用施設の豪華さより、高齢になっても住み続けたいとおもわせる親身なサービスと管理体制の「ソフト面」にあるのかもしれない。

 

老人ホームのような

認知症で自分の部屋がどこか分からなくなってしまう入居者もいた。

「インターホンを鳴らしたら他人が出たの。きっと泥棒だわ」「私の鍵で開かないの。合鍵を貸してくださいな」と受付で訴えるのは一人暮らしの上野桜子さん(74歳・仮名)。

 

夫に先立たれて小さな部屋に住み替えたのが5年前。最近、出かけて帰る時に間違えて以前住んでいた「我が家」に帰ってしまう。

 

「泥棒がいる」と110番してパトカーが飛んできたこともあるし、錠前屋を呼んで鍵を開けようとして、部屋の持ち主が激怒したこともあった。認知症専門医によれば「自立型の有料老人ホームでもよくあるトラブル」だという。

 

海外で暮らす息子さんの了承をとった上で、外出時には「落とすといけませんので」と桜子さんの自室の鍵をフロントに預けさせ、帰宅時にはコンシェルジュが鍵を持って部屋まで付き添うことにした。毎日フロントの誰かしらと会話を交わすことで孤独感が癒やされたのか、桜子さんの混乱はおさまりつつあるらしい。

 

CAからコンシェルジュへの転職をした亜矢さんは、タワマンという場所をどう見ているのか。

数十年後に起こる大異変

 

「修繕費込みの管理費が月10万円ですから、24時間体制で様々なお手伝いをさせていただいております。フロント業務以外にも猫の面倒を見てあげたり、背中の湿布を貼ったり、腕の骨折で着替えができない時のサポートをしたこともあります。こうした仕事は、原則として有料です。

 

有名なタワマンに住む優越感と満足感からか、入居当初からずっとお住まいの方が多く、『狭苦しい介護施設は嫌だ、ここで死にたい』とおっしゃる方が多いです。例えは悪いですが『地獄の沙汰も金次第』で、家事手伝いや専任のヘルパーを雇ったり、シニア向け病院や施設と数週間ごとに往復して生活して、体調を維持して頑張って住み続けておられます。

 

建築時には『新車に乗り換えるように、住まいも加齢とライフスタイルに合ったものに買い替える』というのがバブル期の当タワマンのコンセプトでした。それから28年、かくも多くの高齢者が転居せずに住み続けているのは販売元の誤算だったかもしれませんね」

 

1990年代、2000年代にタワマンを買った住人たちも、いずれは「老い」と直面することになる。「憧れ」からタワマンを選ぶ人は多いが、数十年後に待つ「現実」についても考えておくべきだろう。

 

現代ビジネス