2000年代の変化
安倍晋三元首相が奈良市で演説中に銃で撃たれて死亡した事件で、統一教会の霊感商法がクローズアップされている。
事件当初は「宗教団体」としか書いていなかった各メディアも、現代ビジネスが団体名を書いた記事を掲載し、統一教会が会見をおこなうと、堰を切ったように、ほかも「旧統一教会」と書きだした。
長い間、統一教会の4文字はメディアの中でも不文律のタブーになってきた事実がある。
1998年以降の記者生活を振り返れば、筆者は、2002年に週刊誌で、あるアイドルグループが統一教会の支援を受けていた記事を書いており、この頃はタブーになってはいなかった。
集まった信者たちをファンに見せかけて盛況を演出したという内容だが、当時は、ほかでも教育系の大手企業が教会から資金を入れているという報道もあった。
しかし、数年後、大手企業の仕事を多数受注しているコンサルタント会社が統一教会と組んだらしいという話があったあたりから、次第に統一教会に関することがメディアの間でタブーとなっていった。
2006年、ある情報番組の出演で、一般ニュースにコメントする仕事の際、制作サイドから「これらを口にするときは内容に気をつけてほしい」と渡されたリストがあった。
そこには広告代理店の電通、創価学会、朝鮮総連、ディズニー、ジャニーズ、食品環境ホルモン、コンビニ弁当など、多数のワードが並び、そこに統一教会もあった。
電通やジャニーズなどのテレビ界のビジネス上の事情があるものは理解できたが、教会はかつてテレビで霊感商法の被害を大きく報道していたから意外だった。プロデューサーにそれを聞くと「最近はダメなんですよ」と言っていた。
2007年、南米パラグアイで統一教会の信者である日本人男女2人が誘拐される事件があった際、「統一教会」の名称を書いている媒体、そうでない媒体に分かれていた。
南米には統一教会の日本人信者が多く在住している事実があったが、筆者がある媒体にそのあたりの背景を書いたら、該当部分が大幅にカットされたことがあった。
「そこは触れないでおきましょう」
2008年、社会の「タブー」を扱うムックに携わった。「テレビや新聞では触れないタブー情報」として編集部が章立てした中に、皇室や事件問題、防衛関係の汚職などとともに「統一教会」も挙がっていた。
ほかの記者が書いた記事は、ある市長の親族が教会信者で、選挙で大きな支援を受けているという内容だった。この時点で政治と教会の関係はタブーになっていたのである。
同年、実話誌から依頼されたのが、元国会議員・浜田幸一氏の著書についてのミステリー記事だったが、このときもNGが出た。
浜田氏の著書には過去、オウム真理教に3人の政治家が莫大な寄付をしていたと書かれており、石原慎太郎と金丸信の実名が出されていたが、残るひとりは書かれておらず、そこを探る記事の依頼だった。
取材過程で政界の証言者から「統一教会がらみの疑惑」が出ていたのだが、編集部から「教会関係はいろいろ面倒なしがらみがあるので、そこは触れないでおきましょう」と言われた。
同時期、ある芸能人が自殺した際、教会関係者がオーナーとなっているマンションに住んでいたことが判明。当人が海外の教会拠点に行っていたという関係者証言も得ていたが、これも週刊誌の編集部サイドからNGが出て表にしなかった。
2009年、ある人気市議が祖父の代から教会と縁が深いという取材をしていた雑誌記者がいたが、これまた媒体側からNGが出て、当人はメールマガジンにその記事を載せたこともあった。
大手はあまり話題にせず
この年、筆者も仕事をしていたスポーツ紙を発行する内外タイムス社が倒産したが、親しかった元役員に話を聞くと、「倒産直前、一部役員が統一教会に会社を買ってもらう交渉をしていたことで、支援を予定していたIT事業者が撤退した」という話を聞いた。
宗教団体なのに、メディアが身売り先の候補にするのかと驚いたが、「教会はメディアに入り込みたがっているから」と言っていた。
翌年、人材派遣大手・グッドウィルグループの巨額脱税事件に絡んだ話で、犯人隠匿罪に問われた被告3人が統一教会の信者として知り合ったと供述。
これに絡んで東京地検特捜部が、久間章生元防衛大臣が設立に関わった会社を家宅捜索したが、あまり大きな話題になっておらず、追求したのは独立系メディアばかりだった。
2012年、第2次安倍政権になると、さらに統一教会がらみの記事は激減。
2014年に週刊新潮が山谷えり子国家公安委員長と統一教会の関係を記事にした程度になっていた。
そして2016年、テレビ東京の番組「世界ナゼそこに?日本人」では、取り上げられた海外在住の日本人に教会信者が多数含まれていることが判明。
ウクライナやコスタリカ、ブルキナファソなどで暮らす日本人女性が、教会の命を受け現地で信者と結婚したり、布教活動で滞在したりしていたが、番組側はその部分には触れずに伝えていた。
「その話をするなら縁を切ります」
実は筆者、別の番組でも統一教会と番組が密接な関係を持つ形跡を見つけ、番組プロデューサーに「おかしいのでは?」と質問を投げたことがあった。
そのプロデューサーは別番組で定期的に筆者を起用していたため連絡しやすかったのだが、教会の話を持ちだした途端、「その話をするなら縁を切ります」と絶縁され、以降は出演依頼がなくなった。まさに教会のメディアへの圧力を体感したのである。
2019年、日刊ゲンダイが「安倍新内閣はまるでカルト内閣」として、教会と関係する大臣や役員が多数いることを伝えていたが、多くのメディアはこの点については触れないままだった。
タブーとなっていた間、筆者が何度か書いた統一教会に関する記事も、組織名が「ある宗教団体」に置き換えられて掲載されたこともあった。
安倍元首相が殺されて、ようやくそのタブーが解禁されたというのは奇妙な話で、昨日はマレーシア人記者から「なぜ日本のメディアはそんなに教会を恐れるのか」とも聞かれた。
「政府や警察、報道などにも信者が入り込んでいて、大きな資金を持つ巨大な力ともなっているので、怖いというより味方につけると得なのだろう」と答えたが、推定1兆円を超える被害があるとも見られる「日本史上最大の消費者被害」を、日本の権力や報道が資金源にしているならば、教会の集金以上に恐ろしいことではないか。
フリージャーナリスト
片岡 亮
RYO KATAOKA
フリージャーナリスト。過去、K-1やプロレスにも出場した元格闘家で、アメリカで約7年間の商社マンを経験した後、帰国。ナイタイスポーツ社会部記者を経て2001年に独立。日刊紙、週刊誌、月刊誌、ネットニュースなどを中心に社会事件から芸能、スポーツ、国際情勢、オカルトに至るまでジャンルレスに取材活動を続ける。テレビやラジオ出演も多数、これまで約70カ国の海外取材もしており、2018にはマレーシアにもオフィスを設立。取材チーム「NEWSIDER Tokyo & KL」を主宰。